Epilogue(全文)
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ナツメは銃を片手に持ったまま、アサガオに近寄る。一歩ずつ縮まるその足音が、アサガオにはカウントダウンのように聞こえた。それが鳴り止んだとき、自分の命も終わるのだと。
鳴り止んだ。ナツメが言った。
「行くぞ」
彼はアサガオを背負う。銃を握ったまま。少女の体は軽かった。今まで背負ってきた人間のうちで最も軽かった。それでいて命の重みがあった。ナツメはそれに耐えなければならなかった。
アサガオは抵抗することなく身を委ねる。
背負われて、彼女はナツメの耳元で問う。
「どこへ行くのですか」
ナツメが前を向く。ポリスの中心部に続く、広い道。
足元にはロボットの遺骸が転がっていた。銃声と悲鳴は、今も空を伝って響いていた。
「ポリスに戻る」
アサガオが息を呑むのを、ナツメは感じる。
彼は念を押すように言った。それは自分自身に言い聞かせる言葉でもあった。
「ポリスに入ったロボットの残りを壊しに行く」
ナツメの目が風を追う。
「逃げるのは、やめたのですか」
同じものをアサガオも見る。それは道を伝ってポリスの中へ中へと駆けていく。
「逃げるのはやめた」
どうして、アサガオはそう問いかけようとしてやめた。彼女は口を閉じる。何も言わず、ナツメの背中に身を預ける。
ナツメが歩き始める。
「行くぞ」
踏み出すごとにビジョンが見える。それはすぐそこにある未来の姿。
ポリスの真ん中の大きな墓。木の枝でできた十字架を立てられただけの粗末な墓標。そこに手向けられた小さな花。その地面の下にはたくさんの遺体が埋まっている。本当なら道端に転がったまま干からびていたはずの遺体。彼らを生き返らせることは誰にもできない。墓標に彼ら一人ひとりの名前を刻んできることもできない。けれど埋葬することなら自分一人でもできる。自分は一人ではない。
彼は息のない友を静かな場所で寝かせてやる。少女はそこに摘んできた花を添えてやる。
そんな未来へ、砂まみれの炎天下をナツメは行く。
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