Epilogue(全文)
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ない。死んだ都市の中。森も樹木さえ目の届く場所にないコンクリートジャングルの真ん中。香るのは生き物の臭いだけ。記憶をリフレインさせる生々しさ。真っ赤に染まる砂色の景色。彼は今それを目にしている。走馬灯のように、はっきりと。
思い起こされる過去は常に砂の色をしていた。味も砂と同じ。生き物の色が見えたかと思えばすぐに塗りつぶされる。長い間そんな場所で生き抜いてきた。生き延びることができたのは偶然だった。
ナツメは汚れた布で少女の腿を縛り上げた。
どうしてそんなことをしているのかわからなくなる。それでも彼は続けた。できるだけ強く、そこにある流れをせき止めるように。
耳元で声が聞こえた。
「あなたは」
蚊の鳴くような声だった。
ナツメは見ているのが走馬灯ではないことを思い出す。
「あなたは、どうして」
アサガオが彼を見ていた。ナツメは顔を上げない。
縛り終えた。血はほとんど止まっていた。終えてもナツメはしばらく布をつかんだまま離せない。拳が開くことをしなかった。少女はほんの少し息を荒くしながら、しかし泣くことも叫ぶこともなかった。
代わりにアサガオは困惑した。緊張と興奮のせいで痛みはほとんど感じなかったが、痛烈な疑念と不安がこみ上げてくる。彼女はそれを自己の中だけで対処することがついにできなかった。
「わたしはロボットなのに」
ナツメが口を開けた。何かを言おうとして、何もいえないままに閉じる。
もう一度、
「お前がそう言うなら、そうなんだろう」
彼は立ち上がる。いつの間にか拳の力は消えている。
ナツメは五歩だけ歩いて投げ捨てられた銃を拾った。空っぽになったマガジンを捨て、新しいものを自分のポケットから取り出してセットする。レバーを引いて装填。息を吹き返す。
「だったら、どうして」
アサガオはまだ立ち上がることができない。痛みはなくとも腰が抜けている。ナツメはアサガオと一度も目を合わせなかった。彼女は彼をじっと見つめていた。
小銃のベルトを肩にかけ、彼は問った。
「お前はロボットか?」
いつか、彼が彼女にそう訊いたのと同じように。
初めてナツメがアサガオの目を見た。深く色づいた瞳だった。
彼女は記憶と同じように答える。
「はい」
目を逸らさなかった。ナツメもアサガオも。
しかしナツメは彼の記憶のように素直に頷くことをしない。
「俺には、そうは思えない」
深く色づく瞳も、白い服を染める赤も、ナツメに訴えかける。むせ返るような臭いは生き物のそれだった。
アサガオの表情が曇る。
「ロボットです。人間につくられた」
彼女は真っ直ぐにナツメを見つめた。それ以外にできることがなかった。
「お前はそう言うかもしれない。俺はそうは思わない」
アサガオは何も言えなくなった
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