Epilogue(全文)
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はならない。
彼は生き残るために逃げる。
別の彼は思う。
同じ後悔を何度繰り返すのか。
彼は死ぬために引き金を引く。
また別の彼は思い返す。
自らの過去と、今まで忘却の彼方にあったはずの思い出を。
彼は脳裏に走馬灯を描く。
【第十一章】
太い幹線道路の真ん中に、四本足で立つロボットの背中があった。
三十メートルの距離。ロボットはいつの間にか足を止めている。
その向こうの小さな人影。
殺戮ロボットに銃口を向けられた少女は、ナツメを見ていた。
同じだった。ナツメと少女が出会ったときと。彼女は銃口を向けられ、それなのに怯えを知らなかった。ナツメはたった一人の少女に驚愕した。
交差する視線に、ナツメは少女の意志を感じる。それは心へ訴えかける心に似ていた。それが本当なのかどうか確かめるには、二人の間の距離は長すぎた。
透明だったはずの瞳が色味を帯びていく。訴える。どうして、と。
彼女の小さな唇が動く。逃げて、と。
彼の口は言う。問い返すように。
「どうして、」
それ以上は言葉にらない。
ナツメは駆ける。銃を構えて、背中を向けるロボットに向かって。
何も見えてないなかった。無感情に銃口を突きつける殺戮ロボットの姿も、感情的に目を見開く少女の姿も。ただ距離を詰め、銃を向け、そして引き金を引いた。理由はなく、あるのは衝動だった。
連なった銃声が響く。弾丸が地面を穿つ。ありったけの弾を吐き出し続ける。
ナツメにはわからない。どうしてアサガオがそこにいるのか。
銃声が続く。
頬を汗が伝う。指に力がこもったまま。
最後に空廻る一音を残して、弾倉は空になる。それでも引き金を絞り続ける。地面にあいた無数の穴が、彷徨う銃弾の軌跡を物語る。
ナツメの手から小銃が滑り落ちる。ベルトが肩に食い込む。
鉄の体を幾度となく貫かれた殺戮ロボットが、地面に伏せた。
ようやくナツメが息を吐いた。
音は何も聞こえなくなる。自分の息遣い以外には。車輪の走行音も銃声も消え、静寂がビルの谷間を支配する。動くものはない。ロボットは沈黙し、ナツメは息をすることの他に何もできない。目の前の地面を銃弾に砕かれたアサガオは佇立するだけだった。死んだように、彼女が動くことはなかった。
空からも音は消えた。響いていた銃声も、人の悲鳴もナツメの耳に入らなかった。ポリスに侵入したのは眼前で倒れたロボットだけなのかもしれない。あるいは彼の耳がおかしくなっているのかもしれない。ただ、どちらにしろ彼は動かなければならなかった。一刻も早くその場から逃げ出すために。
彼はアサガオの手をとるために踏み出す。
その瞬間に銃声が響いた。
ナツメの銃に、弾は残っていなかった。
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