Epilogue(全文)
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れる。
井戸のある十字路で野菜を洗う女と洗濯をする女が鉢合わせるように、ナツメは走るロボットと大通りで出会う。
そのときでさえ音は聞こえなかった。足音も、殺戮ロボットの車輪が回る音も、自らの鼓動さえも。鼓動はすでに止まっているのではないかと思う。時が止まったかのような感覚を覚える。走馬灯は流れない。ほとんど止まってしまった時間がナツメにロボットを観察させる。フライングディスクのような胴体、細い四本の足、その先端の車輪、背負う二丁の小銃。その銃から放たれた弾丸に自分の頭蓋骨が砕かれる瞬間を想像する。眉間に食い込む金色の弾丸が皮膚を焼き切り骨を穿つ。砕けた骨が飛び散り、弾は脳みそを掻き回す。ごちゃごちゃになった脳みそと一緒に弾丸は後頭部から抜け、背後のビルの壁に突き刺さる。自分は脳みそを垂れ流しながら前のめりに倒れる。
音は聞こえない。時は進まない。
死ぬまでに残された時間。ナツメは思う。自分がここで死ぬのなら、隠れることを選んだ少女は生き残るのだろうか。
答えは出ない。その未来は想像されない。
時間の流れが戻る。
ナツメの足がようやく二歩目を踏み出す。
殺戮ロボットは、ナツメに目もくれず走り去る。
ナツメはロボットの背中を見ていた。
イメージされた未来のビジョンから現実が遠のく。殺戮ロボットはナツメの頭蓋骨を撃ちぬくことなく走り去った。未来のビジョンが脳裏に再生されたように、彼には眼前のそれが幻覚に感じられる。自分はまだ、都合のいい幻を見ているのではないか――そう思う。
着実にロボットはナツメから遠ざかった。四つの車輪が砂を巻き上げ、軽快にビルとビルの谷間を進む。ロボットの銃口はナツメのことを見ていなかった。その背部に取り付けられたカメラは彼の存在を認めている。しかしロボットはナツメを考えようとしない。まるで彼が殺すに値しないことを知っているかのように。
足が三歩目を踏み出したところで、彼は現実を見る。
彼は銃を構えた。走りゆくロボットの背中に向けて。そのせいで足は止まった。砂が舞い上がり、ロボットが宙に放ったのと混じりあって消えていく。ナツメは撃たない。止まったままの呼吸がその鼓動さえ止めようとする。そのせいで体は振るえを知らずに小銃を持つ。真っ白な頭が事態を整理する。
フロントサイトとリアサイトが一直線に並び、その延長線上にロボットの胴体が重なる。
そのさらに向こうに、ナツメは少女を見た。
【第十章】
思考する時間は許されなかった。
彼の四肢は独りでに動いた。
そこに彼の意思は関係なかった。
それでも彼は考えた。
議論があった。
今、ここで、自分は、何をすべきなのか、という。
彼は思う。
見つからなかった、その幸運を捨てて
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