Epilogue(全文)
[48/55]
[1]次 [9]前 最後 最初
がらに衝撃を受けたようだった。
「誰かが、そう仕向けたのですか?」
か細い声で彼女は問いかける。瞳はナツメだけを見る。助けを請うように。
「何?」
「ここに暮らす人々を殺害するために?」
彼女が怯えていることをナツメは知った。言葉は小さく震えていた。人の心に似せようとして作られたロボットのプログラムが、彼女の思考をナツメに教える。あまりにも微細な主張だが、彼はそれを感じるしかなかった。
「わからない。そうかもしれないし、偶然かもしれない」
いつかこうなる運命で、その「いつか」がやってきた――ナツメにはその認識しかなかった。原因や理由は些末なことだった。
「俺は外へ逃げる。逃げるのなら連れていく。ここに残ってやり過ごすのなら、それもいい」
ナツメは判断を急かす。ポリスの外へ出るのは早い方がよかった。せめて、殺戮ロボットがナツメとアサガオ以外の住人を殺し終える前に逃げなければならない。
「他の人たちは、どうするのですか」
少女は不安げだった。問うことで自分の決断を先延ばしにしているようにも思われる。
「他のやつらのことは、そいつらに任せておけばいい」
ナツメに他の住人まで連れ出すつもりはなかった。アサガオだけが、ロボットであるという理由において一定の信頼を抱けるのだった。
「どうする?」
彷徨っていた少女の視線が、あるとき一点に定められる。朝顔の青い花だった。小さな手が強く握られた。
「私は」
アサガオがナツメを見た。
「私は、ここに残ります」
彼女は不自然に力強く告げた。自分に迷いがないことを彼に示すように。ナツメには何が彼女に決意させたのかわからなかった。ナツメが無理に彼女を連れて逃げることはできないように感じられた。そのつもりもなかった。
「そうか」
ナツメは顎を引くと、すぐに視線をアサガオから外して校舎の外へ向けた。すべての感覚を周囲の状況を知るために使おうとした。アサガオのことを感覚する必要はなかった。音は何も聞こえない。窓から見える範囲には、何も異常は見当たらない。
彼はタイミングを伺う。勘を頼りにする他なかった。ほとんどそれ次第で、ロボットと遭遇して撃ち殺されるか否かが決まるのだった。
口を噤んでひたすらに待つナツメに、アサガオが言った。
「あの、」
ナツメは集中を切らしたが、振り向くことをしない。
「どうした」
短い間があった。言葉にすることを躊躇うような。
「あなたは、どこへ行くのですか?」
「さぁな」
誤魔化すのではなかった。ナツメに行く宛はない。今までと同じようにどこか別のポリスに行き当たるか、それともすたれたコンクリートジャングルの中で野垂れ死ぬのか。
「今はとにかくここを出る。それからのことは、それから考える」
「ここを出ていくのは、危険なので
[1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ