Epilogue(全文)
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どうしてそこに足を運んだのかわからなくなった。逃げなければならないはずだった。そうしてまた放浪し、別のポリスを見つけるのだった。今までそうしてきたように。信頼できる人間なら旅の友とすることができる。しかし彼女はロボットだった。ともに生きることは不可能だった。最初から生をもっていないのだから。
彼女を連れ出す必要があるのか、ナツメにはわからなかった。
そのとき、彼は音を聞いた。
何かの滑る音、回る音、誰かの声、低い銃声。
それから老いた男の叫び。それが最後だった。音はぴたりとやんだ。今までの音よりも、ずっと近かった。
「屈め!」
保健室の中に飛び込んだナツメがアサガオの頭を押さえつけた。彼女は小さな悲鳴を上げ、わけもわからず座り込まなければならなかった。ナツメは彼女を押さえつけ続ける。大きな窓の外から、その赤い瞳に見つけられないように。
アサガオがナツメを見上げて、彼が何か焦っていることを理解する頃には、物音は去った。ナツメはしばらくその姿勢を崩さない。屈んでいろ、と告げるとアサガオの頭から手を離し、銃を握って身を低くしたまま窓の方へにじり寄る。朝顔の花や蔓が邪魔で窓のある壁に身を寄せることはできない。
アサガオが体を動かすことなく問った。
「どうかしましたか?」
ナツメは彼女に目を向けることをしない。
「非常事態だ。黙っていろ」
アサガオはそれを命令だと認識する。
「わかりました」
音はしばらく聞こえなかった。それから最初に聞こえたのは、それまでと同じような遠くからの銃声。近くでは車輪が地面を滑る音も聞こえない。ナツメは一度落ち着いた。自分のただならない様子にアサガオが怯えているのも感じていた。
ナツメは逃げることだけを考える。校舎を出て、細い道だけを伝ってポリスの外壁まで行くことができないかと地形を想起する。不可能だった。必ず一度は、太い道を横切らなければならない。
ナツメは萎んだ花をじっと見つめた。
「俺は、ここを出る」
言った。
返答はなかった。アサガオはナツメを見た。けれど口を開けることをしない。「黙っていろ」という命令を聞いたがために。それにナツメが気づくのに数秒かかった。
「お前はどうする?」
アサガオは自分が言葉を発する許可を得たことを理解したが、今度は口を開けても言葉が出なかった。
「私は……」
戸惑いを孕んだ瞳がナツメを見る。それから視線を彷徨わせた。部屋中にある朝顔の花の一つ一つを確認していくように。どうしていいかわからないのだった。何が起こっているのかさえわからない彼女には。
「今、ポリスの中は危険だ」
アサガオは神妙に頷く。
「殺戮ロボットがうろついている。見つかれば殺される」
彼女は一瞬だけ言葉を詰まらせた。表情は何も変わらずとも、ロボットの心な
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