暁 〜小説投稿サイト〜
Epilogue
Epilogue(全文)
[45/55]

[1] [9] 最後 最初
れているような。自分でつくった血だまりの中の人間が大抵そうするように。
「何してるんだ、お前……」
 彼は二言目にそう言った。助けを請うでも、走馬灯を語るでもなく、ユーリは呆れるように口元を歪めるのだった。
 ナツメは応えなかった。
「止血する。痛むぞ」
 彼は自分の服とユーリの服の一部を破り取って長い包帯を作った。弾丸が彼の腹を貫通しているかどうか確認することもなく、彼はすぐにそれをユーリの腹に巻き付ける。それ以上血を流せば彼が絶命することは目に見えていた。
 治療というにはあまりにも乱雑で清潔感に欠けている。それでも、彼はその方法で何人かの瀕死の戦友を救ってきたのだった。彼は何度も戦場で命の抜けた体を見た。そのポリスの中でも九人見た。その内には顔を見知った人間もいた。タナベやナズナのように。だが彼は死んでいると見てわかる人間に近寄ることをしなかった。それがまったくの無駄だとわかっているから。
 けれどまだ生きている命は救わなければならない。戦場でそう教えられ、体がナツメにそう言うのだった。
 即席の包帯を巻き付けられながら、彼はナツメを見上げ続けた。
「おいナツメ……わかってるだろ」
 ナツメは応えない。
「早く、逃げろ……」
 ユーリは震える声で言った。祈るように。
 巻き付けた布から赤い染みが広がる。どれだけきつく縛ろうと染みは広がり続け、ナツメの指を染める。汗の臭いと血液の臭いが混ざり合う。戦場の臭い。死の臭い。
 それでもナツメは縛り続けた。ユーリの息は次第に浅くなる。何度も意識が途切れる。ユーリは自分の意識の断絶に気づくこともなく、遠いどこかを眺めるような気持ちでナツメの顔をじっと見た。音は聞こえなかった。
「なぁ……ナツメ」
 自分の声さえ聞こえなかった。ナツメは反応を見せない。言葉が届いていないのかとユーリは思った。しかし続ける。
 口の中からも血が溢れ出し、真っ赤に染まっていた。ユーリはそれにも気づかずに、ほとんど回らない呂律で喋った。
「ごめんな」
 この間、怒鳴ったりして。その言葉は動かなくなった舌のせいでナツメが聞き取れる発音にならなかった。ユーリにはわからなかった。ナツメがその言葉を理解できたのかどうか。もう一度言おうとしても、今度こそ唇さえ動かなかった。ナツメは止血を続ける。言葉を発することもできなくなった口から、血が吹き出す。ナツメの服を鮮血が染め上げ、頬にも赤い雫が飛び散る。ユーリはそれをきれいだと思った。
 彼がまた何かを言おうとした。ナツメにもそれがわかった。
「喋るな!」
 機能しなくなったユーリの耳は、ほとんどその叫びを聞き取ることができなかった。彼の口からは血が漏れるだけで、言葉は出なかった。
 聞き取ることができずに、しかしユーリはナツメの願いを聞き入れた。従順すぎる
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ