Epilogue(全文)
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向けない。
「その方が都合がよかろう」
何もかもを見通した瞳が、もうほとんど開かなくなった細い双眸から覗いていた。シゲイはナツメを再度一瞥した。反応を視覚で感覚しようとする。
ナツメはシゲイがこのポリスの権力者であることを実感し、その深い黒の瞳で見られるのがたまらなく嫌になった。
「助かる。そこを使わせてもらう」
彼はそう言って立ち去ろうとした。ベルトで肩からぶら下げた銃ごと、彼はシゲイに背を向けた。
「待て、軍人」
シゲイは嗄れた声で呼び止めた。老いた声だが、その鈍重さがナツメの足を重くする。
「俺はもう軍人じゃない。軍隊はとっくに壊滅した」
ナツメの視界の外でシゲイが頷く。
「いつまで、ここにおるつもりか」
「予定はない。計画も」
パキ、と囲炉裏の炭が音を立てた。
「農作業の手伝いくらいはする。体力には自信がある」
それだけ告げると、ナツメは今度こそナツメは土間から去った。竹で編まれた簾を頭で押し退け、すぐにシゲイの視界の外に出る。彼を見ている限りでは幾度しか目が合わなかったのに、背を向けると常に睨まれているような感覚があった。彼の視線から解放されても、まだ何かを彼に握られたような心地の悪さがあとを引いた。
廃品バリケードの中でも風景は変わらなかった。崩れかけのビルと一戸建て住宅が並ぶだけだった。ただし偶然か必然か、バリケードの外と比べれば一戸建ての建物が多いように見受けられる。しかしそこは寂れた廃墟群にしか映らなかった。身を寄せ合い、戦争から生き残った人々が死に物狂いで生活を続けているのだとしても。
ナツメは青い空に昼の太陽を探した。
日常的に使われている道とそうでない道とはすぐに見分けることができた。使われている道にはゴミが少なかったし、人の気配があった。広い道が好んで使われているわけではないことも歩いてみればわかる。ナツメが殺戮ロボットと対峙した主要道の先がこのポリスの中にあったが、そこには砂がたまり、ガラクタで溢れていた。不必要なまでに広い空間は、その寂れた印象を余計に加速させるのだった。
元来た道を戻るようにして、ナツメは学校を目指した。途中出会った幾らかの住人に道を聞いた。年齢はナツメよりも年下から老婆まで様々だったが、皆女性だった。ナツメは、男はどこか別の場所で農作業でもしているのだろうと想像する。彼女らはナツメを見ると、一瞬だけ肩からかけられた銃に視線を泳がせて、それから彼の話を聞いた。道を訊ねて答えない者は一人もいなかった。
シゲイの住む家から出て十分ほど歩くと、ナツメは紹介された学校を見つけることができた。かつては描かれていたであろう二百メートルトラックの白線が風に消されたグラウンドの向こうに、鉄筋コンクリートの校舎がぽつんと座っている。学校の名はわからなかった。校
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