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Epilogue
Epilogue(全文)
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表情が印象的な女だった。年齢は十五かそこらだとナツメの目には映る。白いワンピースと肌が日の光に溶けるようだった。彼女は無感情にナツメを見つめ、黙っていた。銃口を向けられたままだというのに。
 少女と目が合っていることを知って、ナツメは金縛りからようやく解放された。すぐに銃を下ろした。時折彼女が瞬きをするだけで、それ以外はすべてが止まっているように見えた。
その感覚に自分まで引き込まれてしまいそうで、ナツメは言葉をかけた。
「ここで何をしている?」
 少女は一拍の間をおいてから、
「水を汲んでいます」
 動くのは口元だけで、表情は一切変化しなかった。
 言う通り、彼女はビルとビルの間にある古い井戸から水を汲み上げているようだった。痛んだバケツが井筒に立て掛けられ、彼女の手元には半透明のポリタンク。
 しかしナツメが問った理由は違った。彼女が何をしているのかよりも、彼女がその場所にいることそのものが問題だった。一人の幼い少女が、戦場も同然の街中にいるということが。
 そこで彼は少女の背後の影に気がつく。古い看板やアルミのベンチを組み合わせて作られた、廃品バリケードだった。板と板が絡み合っただけの簡単に崩せそうな高さ三メートルほどの壁が、視界を塞いでいる。ナツメは知っていた。そのバリケードが防いでいるものが、外からの攻撃ではなく、外からの視線だということを。彼には見覚えがあるのだった。その場所を訪れたことはない。他の場所で同じものを目にしたのだった。その場所は山の中だったり浜辺だったりしたが、即席で築かれた壁と、その中にあるものはどれも同じだった。
 誰に問うでもなく彼は呟く。
「ポリスか」
 少女がそれに答えた。
「はい。ここはポリスです」
 廃墟都市に吹く風のように乾いた声音が、ナツメにだけ届いて消えた。


【第二章】

「学校を使うといい」
 顔にいくつもの皺を記憶とともに刻み込んだ老人はナツメにそう言った。
 朽ちかけの畳の上で胡座を組み、彼は囲炉裏の火を眺めてナツメの方を見ようとしなかった。まるで最初の一見で彼のすべてを見透かしたかのように。最初にナツメが彼のいる古屋に入ったとき、彼はナツメを一瞥し自らをシゲイと名乗った。
 どこか住める場所を貸してほしい、というナツメの言葉に、シゲイは答えたのだった。
「南の隅に学校がある。そこなら誰もおらん」
 シゲイの住む家は小さく、部屋は狭かった。だが八十過ぎの老人が一人住むには広すぎるように思われる。しかしナツメの目にはシゲイ一人の六畳一間が寂しいとは不思議と感じられなかった。それは彼が廃墟となった住宅街の中で彼の家を見つけたときも同じだった。寂れた印象を抱かせない何かがそこにあるのだった。
「近くに誰か住んでいるか?」
「おらん」
 シゲイはナツメに目を
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