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Epilogue
Epilogue(全文)
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だとき、その一度だけ。葬式にはたくさんの人が来た。それが彼の知る命だった。しかし目の前で友は一瞬にして殺される。当たり前のように、卵を割ることよりも簡単に。
 初めての戦場、彼は運よくかすり傷の一つもなく生き延びた。叫んだ上官は腕に弾丸をもらっていた。弾丸を摘出したあと、上官は利き腕じゃない、まだまだ銃は撃てると言って笑った。その日のテントで、誰も死んだ者の話はしなかった。
 そんなことが何度も続いた。時間の感覚が麻痺するほど長い戦いで、何度も何度も。人間に殺された仲間がいた。流れ弾に運悪く命を落とす者もいた。ロボットに撃たれる友もいた。ロボットとロボットの争いさえあった。どちらかが動かなくなるまでロボットは戦い続け、逃げも隠れもせず、その流れ弾に多くの人間が死んでいくのだった。
 彼が受けた傷といえば、数え切れぬほどのかすり傷と、転んだ拍子に負った骨折だけだった。銃弾に頭を打ち抜かれることも、爆弾に体を粉々にされることもなかった。口にくわえた手投げ弾で、自分の頭をズタズタにすることも。仲間の中には酒や薬で死んでいく者もいた。彼はどちらもダメだった。酒を飲んでも嘔吐するだけだったし、薬も大して効かなかった。一番仲がよかった戦友が、薬のやりすぎで人として使い物にならくなるのを見たときに、彼の心は薬物を受けつけなくなった。
 そうして彼は生き延びた。そういう天命だった。あるとき周りの者は彼の幸運を称え、羨ましがった。それに縋ろうとして近づく者もあった。奇妙なことに、そういう者から順に死んでいった。
 だが彼自身は幸運を憎んだ。それを与えた主さえも。
 誰もいない夜になると、聞こえてくるのだった。亡者の嘆きが。亡者は彼の耳元で囁いた。どうしてお前だけ生きているのか、と。彼はその度に沈黙した。気を紛らせるために仲間と騒いでみても、ちっとも気分はよくならない。酒を飲んでも戻すだけ。薬も彼をハイにすることはできなかった。暗がりに潜んで無心でいるしかなかった。眠っているふりをして。
 亡者は時折明確な輪郭を伴って彼の前に現れた。彼の記憶通りの戦友の姿を何度も見る。彼らと対話できることは一度もなかった。薬に脳みそをぐちゃぐちゃにされたように、ただただ自分の主張だけを繰り返すのだった。お前だけ生きていることが卑怯だ、と。
 それは毎晩のように続いた。同じような夢ばかりを見た。
 彼は死にたくなるほどに苦しんだ。精神を削られて、心がその言葉にどんな感情も示さなくなるまで。
 それでも、彼が死ぬことはなかった。


【第五章】

 ポリスに降った雨は、長くは続かなかった。
 翌日の朝には、雲はほとんど東へ流れている。いつもの霞んだ青い空が廃墟都市を覆う。濡れた廃墟は軋み、崩落していく。その光景は世界の滅亡を思わせた。それを間近で見るときだけは、人の
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