Epilogue(全文)
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かった。死んだ街に野生の生き物は寄り付かない。呻き悶えるのは死んだビル群で、砂に埋もれたアスファルトも、乗り捨てられた自動車も黙っていた。降った雨は地下に溜まった。かつては鉄道が走っていた地下の巨大空間に。そこへ通ずる穴からも呻きは聞こえた。生気を失った大都会は我慢強く危険だった。
太陽が傾きを増しつつある。日が暮れるまでにそう長い時間は残されていない。ナツメは周囲を警戒し、銃を構えて歩き進む。数日で軍人であった頃の感覚が消えることはなかった。ポリスから百メートルもない場所。そこを目指すのは難しことではなかった。それも雨上がりの夕暮れに。
ナツメはすぐにその場所にたどり着いた。雨のあとの独特の匂いを嗅ぐ。耳を澄ましても音は聞こえない。ビル群でさえも沈黙していた。赤く染まった空に飲まれるような街が、このときばかりは彼の味方だった。
鉄くずをナツメは拾い上げた。動かなくなったEEにもガソリン車にも、彼は目もくれない。その中身が――生きる上で物資として再利用可能な部分が――すでにほとんど持ち去られていることを知っているからだった。彼が苦労して背負ったのは死んだロボット。ポリスにやってきた日、彼が撃ち殺した殺戮ロボットだった。
ロボットは足の四本しかない蟹のような姿のまま横たわっていた。甲羅にあたる部分だけで一メートル、伸ばした両足を合わせれば二メートル近い大きさがあったが、ナツメは子供を負うように背中に乗せる。ナツメがロボットを背負い、ロボットは二丁の小銃を背負っていた。
彼はそこから無防備な状態でポリスまで戻らなければならなかった。両手をふさがれ、彼の銃はベルトで下げられているだけ。別の殺戮ロボットと遭遇したなら恰好の標的になる。荒野を渡り歩くたちの悪いギャングに見つかったとしても。だからこそナツメはその時間を選んだのだった。殺戮ロボットは雨に濡れて身が錆びることを恐れた。雨が降り始めるとロボットはそれをしのぐために建物の影に入る。雨が上がっても、彼らはしばらく出てこなかった。本当に止んだのかどうか確かめるために。都市が唸りを上げている間はギャングたちも雨上がりの物音を気にしない。それらをナツメは経験で知った。軍人として戦場にいるときには知らないことだった。
ナツメは急いで戻り、ポリスを囲う壁を見つける。あり合わせのパッチワークのような防壁。ナツメはロボットを置いた。壁を作っている古い看板の一つを彼は器用に取り外し、人が一人通れる穴を穿つ。そこからロボットの死骸を放り入れ、自分の中に入った。看板を元に戻して、ナツメはロボットを背負い直す。
廃材パッチワークの壁は、防壁というより目隠しだった。殺戮ロボットを寄せ付けないための。背中に二丁の銃を背負った殺戮ロボットは人間を見つければ見境なく殺すが、彼らに見つからないようにするのはそう難しい
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