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Epilogue
Epilogue(全文)
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ように走りながらトリガーを引き続けた。銃はロボットが銃撃に倒れ動かなくなるまで弾を吐き出す。脚部に三発、円盤ボディに七発の弾丸を受けた穴だらけのロボットは、ナツメに銃口を向けられないまま沈黙した。ナツメの通った道には、排出された薬莢が足跡のように転がる。命中した弾丸の三倍を越える数の薬莢が。
 ナツメは朽ち果てたダストボックスの向こうに駆け込んだ。安い鉄板で拵えられたそれが銃弾を防げるとは思えなかったし、ロボットは完全に機能を停止している。しかしナツメは国の兵士として戦った頃の習慣として身を隠した。それから円盤ロボットの死を確認して、ようやくその遺骸の方へと向かった。
 ナツメはダストボックスからロボットまでの二十五メートルでさえ、細心の注意を払って歩いた。ロボットは群を成すことがある。プールの端から端までの距離だったが、底に足がつかないプールを泳ぎきるよりもずっと時間をかけた。
 ちょうど半分ほど進んだところで、彼は動きを止めた。息が続かなかなくなった水泳選手のように。だが実際はそのときになってナツメは息を止めた。聴覚が異変を知覚したのだった。またどこからか物音がする、と。
 ナツメは耳を澄ませて音を聞いた。ビルとビルの合間を駆け抜ける風の音が聞こえた。それに混じって、確かにさっきまではなかった音色が伝わってくる。ナツメは聴覚からの警告を無視することはできなかった。耳が最も広範囲の情報を収集できる感覚器官であり、見通しの悪い都市部では何よりの頼りだった。
 彼はロボットから離れて音源の方へ向かった。ビルの陰から陰へと渡り、あたかも建物の屋根から屋根へと飛び移るスーパーヒーローかのように彼は地上を走った。
 近づくと音の正体が次第に明らかになる。足音、衣擦れの音、そして液体の撓む音。それ以外にも音は複雑に混じり合っていた。今彼が背中を預けるビルの向こうだとわかった。
 ナツメは自分の呼吸を飲み込み、陰から飛び出して人差し指に力を込めた。


 光を反射しないよう加工された小銃は昼の日光に影を落とすが、それだけだった。銃弾は吐き出されず、人差し指は極度の緊張に痙攣を起こした。ナツメは身を強ばらせ、身動きのできないまま石像と化す。
 彼は銃口の先に、幼い少女と、さらにその奥の巨大な影を見つけた。
もしその少女がただの張りぼてで、その背後の巨大兵器から気を逸らすための囮だったなら、ナツメはこのとき死んでいた。事実、そういうチョウインアンコウのようなロボットの開発計画を軍隊で耳にしたことがあった。
 だがそうではなかった。双方が手を伸ばせば届くような距離にいる少女は、瞳を瞬かせ、確かに息をしていた。その背後の影も、視界を覆うほどに巨大な殺戮兵器などではなく、ただのバリケードであった。
 少女は、光に照らされて微かな藍色を放つボブカットと無
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