Epilogue(全文)
[17/55]
[1]次 [9]前 最後 最初
彼女からは悲しみも、それを忘れようとする努力さえも感じられなかった。
「そうか」
言うと、少女は変わらない顔つきで頷いた。
ショックで心が死んでしまったのかもしれない、とナツメは思った。今までにそういう子供を見たことがないわけではなかった。
「身寄りは? 他に誰か、この場所に来る者はいるのか?」
「私は見たことがありません」
「お前一人だな?」
「はい」
答えは至極単純で単調だった。彼女はしゃがみ込んだままナツメの問いに答えるだけで、何もナツメに訊かない。名前も、出身も、そこにいる理由も、何も。
透明な瞳。死んでしまった心。ナツメはそこに、一つ別の可能性を見出した。それを思案すると、その方がずっと現実的に思える。彼は改めて少女を観察した。線が細く、肌は白い。白のワンピースも、肩まで届かないほどのボブカットも、少女らしさを感じさせる。
「?」
ナツメの視線に、少女が小首を傾げた。人間らしい仕草だった。
しかし、とナツメは思う。
彼は無表情な瞳に問った。
「お前は、ロボットか?」
その瞳は答えた。透明な瞳の中の影で何かを揺らめかせ、透明な透き通るような声音で。
「はい」
単調な、たったの一言。
彼女は隠していたのではなく、ナツメが気づかないだけだった。少女が「ロボット」であるという事実に。
ナツメは彼女のような人型ロボットを見たことがなかった。軍隊の中で雑務を任される人間の形をしたロボットを見たことはあるが、彼らは最低限の言葉しか話せないし、人間のような滑らかな動きをしなかった。ただ一つ、愛想という面においてのみ目の前のロボットはナツメが見てきた他の人型ロボットに劣っていた。
かつての人間の技術はそれほどまでに発展し、それ故に崩壊したのだった。
「今は誰かに仕えているのか?」
「いいえ」
目の前にいるのはかつての技術の残滓でしかなかったが、それは人間に他ならなかった。ナツメは意識して彼女をロボットだと思わなければならなかった。
「エネルギーの補給は?」
「食事で」
人間と同じように口でものを食べ、有機物からエネルギーを作り出す技術も、ナツメが戦場で戦っている間に作られたものだった。彼女は完全に自律して、たった一人で生きているのだった。誰かに尽くすために開発されたロボットであるのに。
ナツメは瞬きする彼女を見て、
「そうか」
とだけ言った。それから踵を返した。
シゲイの言葉も理解ができた。ロボットは人間ではない。この学校にはナツメの他に誰も住んでいない。ロボットは無感情で素直。壊れている様子はないし、危害を加える風にも見えない。ナツメが心配すべきことは何もなかった。そこに「ある」彼女よりも、寝床の雨漏りの方が、彼にとってずっと重要なことであった。
ナツメの姿が見えなく
[1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ