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Epilogue
Epilogue(全文)
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ような目で自動小銃を見つめた。未知に対する好奇心。それが纏うはずの恐れはなかった。戦場を駆け抜けたことのある人間は死んだ目でそれを見る。戦場から遠く離れた者は恐れと嫌悪をもってそれを睨みつけ、目を背けるはずだった。
 彼はそのどちらも含まない顔で、それがさも常套句かのように、
「ちょっと撃たせて」
 と言った。
 ナツメは呆れる演技をするのも忘れた。
「ダメだ」
 ユーリは、えー、と拗ねるような顔を見せたが強請りはしなかった。
「なんで持ち歩いてんの?」
「安全のためだ」
「重いのに?」
「命には代えられない」
 ナツメは自分が任された農場に向かって歩いた。ユーリがそのあとを追う。おれだったら絶対手放してると思うけど、と自分勝手なことを呟きながら。
「もしかして、形見とか? 死んだ戦友の」
「そんなものじゃない」
 悠里は何度も手直しした跡のある靴をぺたぺたと鳴らしながら歩いた。
「じゃあお守り?」
「銃は撃つものだ。撃って、敵を殺すものだ」
 しばらくユーリは口を噤んだ。一定の調子で聞こえる彼の足音だけが、その存在を証明し続けた。ナツメの歩みと同じ周波数で銃は揺れ、動き、マットな表面が光を受け流す。銃口は明後日の方向を向いたまま、誰にも向けられることはなかった。
「ここじゃ、敵なんてどこにもいないのに」
 その言葉を最後に、足音は聞こえなくなった。


【間章1】

 戦争が始まった。それを少女は自分の屋敷の中で知った。
 屋敷は都市の郊外にあった。鉄道の駅を中心にして広がる内陸の都市が窓から見える。周りは森に囲まれて、都市と屋敷とを繋ぐのは最近舗装されたばかりの道が一本あるだけだった。森から動物が迷い込んでくることもあった。少女は動物たちと遊ぶのが好きだった。屋敷には忙しい両親と自分しかいなかったから。彼女は自分の部屋の窓から見える街のことも好きだった。その賑やかで活気に溢れる様子が気に入っていた。
 春になれば、彼女はその街にある学校に通うはずだった。歩いては行けないから、送り迎えの車とその運転手も決まっていた。しかし戦争が始まって、両親は彼女が学校へ行くことを許さなかった。屋敷の庭に一本だけある桜の木が咲く頃になっても、少女はずっと屋敷から出られなかった。そのうち、誰も登校しなくなって学校がなくなったことを知った。
 その頃には屋敷の中に大きな大人の男がたくさん出入りするようになった。母親は屋敷の地下に逃げ込む場所を作っているのだと言った。都市が戦争に巻き込まれても、家族と街の人のいくらかはそこでやり過ごせるように。
 彼女は広い屋敷の中で一人だった。戦争が始まって、知らない大人が出入りするようになって、両親はますます忙しそうにしていることが多くなる。屋敷から出かけていることも増えた。少女はその
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