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Epilogue
Epilogue(全文)
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けではない、ナツメはそう言おうとしてやめた。
 収穫を終え、ナツメはタナベについて市街地へ向かった。配給所の老婆に野菜を手渡し、空になった手で朝食を受け取る。昨晩のようにタナベの妻子が迎えに来ることも、ユーリと名乗った少年が話しかけてくることもなかった。タイミングのせいか人は疎らで、ナツメはタナベと話の続きを交えながら食事をとった。薄味のスープが体に染みた。
 それから農場に戻って昼まで作業を続けた。ナツメにその義務はなかったが、ひとまず他にやることがないのだった。
 農場に現れたユーリが彼に声をかけたのは、ナツメが井戸の水で顔を洗っているときだった。
「やあ、ナツメ」
 真っ白な七分袖のシャツを来た彼は、そのシャツに負けぬほど爽やかな笑顔を見せた。両手ですくった水が、どぼんと落ちた。
「なんの用だ」
 ナツメは彼が彼であることを認めると、すぐに顔を背けてもう一度顔を洗った。ユーリはポリスの情報を聞き出すには便利な人物かもしれないが、自ら進んで話しかけてくるような者に禄な人間がいないのも事実だった。
「別に用なんてないけどさ」
「なら帰れ」
 首からかけていた黄ばみの残るタオルを顔に当て、ナツメはくぐもった声で言う。
「ひどいな」
 ナツメがタオルを再び首にかけて見回しても、辺りにいるのはユーリだけだった。タナベは用事で少し遠い場所にいた。そこは都市郊外の平地を切り開いて作られた農地であり、緑と土色の大地を見渡すことができたが、やはりナツメにはユーリの姿しか映らなかった。
「何しに来た。お前にも仕事があるはずだ」
 彼が誰かの頼みを聞いてやってきたのではないか――ナツメはそう考えたが、確証は得られない。
「大丈夫、今暇だから」
 ユーリは笑顔のままだった。
 ナツメは人相が悪い。常に睥睨するように人を見る。それを指摘されたこともあったし、そのせいで避けられることも女子供を泣かせることもあった。大人や男でさえ、ナツメに愛想を見せるのは最初だけだった。自分に進んで声をかけるユーリを彼は疑うしかなかった。
「おれ、みんなの分の洗濯を任されてるんだ。ほら、こんな体だし」
「そうか」
「そいや、ナツメの分は何も聞いてないな」
「自分でなんとかする」
「そうか?」
 ふーん、とユーリは引き下がった。
 彼はすぐに話題を変える。ナツメの思考を断ち切らせるように。
「それ、ずっと持ち歩いてるのか?」
 ナツメは言われてから彼の視線に気がついた。ベルトによって肩からかけられている銃。マガジンが銃身の下部から差し込まれ、その中には銃弾も詰まっている。レバーを引き、セーフティを解除すれば鉄の弾を吐き出せる
 ナツメはユーリの前から立ち去る準備をして、答えた。
「ああ」
「重くない?」
 ユーリは初めてナツメに会ったときの
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