Epilogue(全文)
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たナツメは、保健室の朝顔のことを思い出した。朝日に照らされるグラウンドを窓の外に見つめ、きっと今ならつぼみは開いているだろうと思う。けれど彼はそれを見に行くことをしなかった。行ってしまえば、本当にその藍色の花に喰らわれる気がした。
ナツメが先日と同じ農場についたとき、目で見てわかるほど痩せた畑にはすでにタナベがいた。彼はナツメが問ってもないのに、彼に気づくと近寄ってきて今朝の食事の分を採ってるんだ、と言った。それからナツメもそれを手伝った。名前も知らない葉物野菜を土の上から毟る。葉は一枚がナツメの手のひら大で、色は白から緑。戦争が始まる前にはなかった品種かもしれなかった。できるだけ少ない手間と時間で、できるだけ痩せた土地でも育てることのできる作物が、遺伝子操作によって開発された。あたかも自動車部品を作るような工場で、あたかも新しいエンジンを作り出すかのように。
ナツメは昔の戦友が言っていたことを思い出す。人は世界を変えすぎた、だからこの戦争は世界を滅ぼすために神様が仕組んだ戦争だ。彼はそう言って、戦争末期、ナツメの知らないところで撃たれて死んだ。世界は終わるのだと彼は信じ、怯えていた。どんな薬をやっていたのかは知らない。彼はそのカルト宗教のような妄想を一人で信じ、そしてナツメは今、それが間違っていなかったことを感じる。人間の世界は衰退し、終わろうとしていた。
戦争の最中、核爆弾で地球全土が死の大地になることはなかった。どこかの連合がどこかの大陸で高性能原子爆弾を使用したという噂話を聞くことはあったが、彼にとってそれは噂に過ぎなかった。地球は生命が存続できる環境のまま、しかし人類は徐々に滅亡への道を進んでいる。
人はそれを受け入れた。人類がかつての繁栄を取り戻す日はこない。それは誰の目にも明らかだった。それでも彼らは生きるのだった。生存本能がささやくままに。
「ナツメは、どうしてこのポリスに来たんだい?」
隣のタナベが問った。
「偶然見つけたからだ」
ナツメは興味を示さない。
それでもタナベは問いを続けた。ナツメの心内など知ったことではないというように。
「それまでは、ずっとポリスの外に?」
「他のポリスにいたこともある」
「どんなところだった? ここよりも裕福だったか?」
タナベがナツメに顔を向けることはない。感情を感じさせない表情のまま、野菜を採った。
「ここよりも資源に恵まれていたポリスはたくさんある」
ナツメの頭の中では、今までに訪れた幾つものポリスの情報が混ざり合い、形を失っていた。記憶は混濁を極め、しかしその中から彼は情報の一片をつまみ出す。
「だが、ここよりも平和に恵まれたポリスを俺は知らない」
タナベが乾いた笑みを見せる。
「そうか。気に入ってくれたようで何よりだ」
ここを気に入ったわ
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