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Epilogue
Epilogue(全文)
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は時間とともに姿を変えていく。そこに人がいてもいなくても。風化した街は時間的な感覚を与えた。長い長い年月の経過を。実際にはほんの最近まで、そこは人に溢れる生きた都市だったのに。
 ナツメは空を見上げて、そろそろ昼がくることを知った。彼は真夏のような日差しを受けて、しかし厚い灰色の軍服を脱ごうとしなかった。袖を捲ることもしない。彼が背負っているバックパックに他の服が入っていなかったからであり、どんな環境でも支給された装備でいることに慣れきったせいであった。ナツメは適地へ侵攻する兵士のように、ミリタリーウェアに身を包み、無光沢の黒い自動小銃を構えて歩く。味方の銃声は聞こえない。敵の息づかいも感じられない。他の人々にとっての戦争はもうとっくに終わっていた。
 それでも彼は耳を澄まし、感覚を研ぎ澄ませた。電気モーターの駆動音が風に乗って聞こえてくる。ナツメは身を低くして半壊したビルの外壁に背を任せた。数秒の間幻聴かと考える。しかし風は確かに音を運んでくる。ナツメは装填されたバレットを確認した。銃弾の金色は彼の命の色だった。
 彼は音の方向を認知してから、頭の半分も出さずにビルの陰からそちらを見た。アスファルトに描かれた白線や標識は確認できず、中央分離帯が残っていた。かつてのメインストリートだった。片側四車線、南北に真っ直ぐ、障害物のない道が一キロ以上続いている。ガソリンエンジン車もEVも見受けられない。その残骸ですら。
 その中に動くものが一つだけあった。それはナツメと同じように敵を探していた。固定カメラと可動式カメラの両方を駆使して。敵を見つければ、相手が誰であろうと背中の二丁の銃で穴を穿つのだとナツメは知っている。その殺戮ロボットは、味方認証システムを搭載していないイレギュラー――物資節約という意味をもって意図的に生産された欠陥品だった。
 ロボットは四本の足の先にあるローラーを回して、ビルの日影を避けゆっくりと道路を南へと走っていた。ロボットの装甲には光発電パネルが張り付けられている。いつまでも、誰からのエネルギー供給もなしに稼動できるように。自分が発見されるまで三十秒、ナツメはそう判断する。彼はここのところ雲行きの怪しい日が続いたことを思い出した。殺戮ロボットは残り少なくなった電力を蓄えることを最優先に行動しているはずだった。
 ナツメはセレクターレバーをオートにセットして機を待った。いつもそうしてきたように。三十メートルほど先にいるロボットには合計五つの目があることを彼は知っている。そのうち四つが固定された四方を見る目で、一つが円盤の周りを回りながら詳細に認識するメインカメラだった。メインカメラが自分から遠ざかるのを待って、ナツメは襲撃した。
 銃弾の使用を最小限に留めようとした。無駄だった。陰から飛び出したナツメはロボットを中心に円運動する
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