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ドン=ジョヴァンニ
第一幕その十一
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第一幕その十一

「あの場所で手を取り合い誓いをかわすので」
「あの場所で」
「そう、あの場所で」
 そこから見えるある小屋を指し示しての言葉である。
「そなたはそこで私にはい、と答えるのだ」
「はい、と」
「そうだ。はい、とだ」
 こう彼女に告げるのだった。
「そんなに遠い場所ではないな」
「ええ」
「だから行こう」
 またツェルリーナを誘う。
「あの場所に」
「行きたくもなし行きたくなくもなし」
 ツェルリーナは迷ったような顔を見せてはいた。
「心は少しばかりおののく」
「よいおののきだよ」
「本当に幸せになれるかしら」
 そのことに不安を感じてさえもいた。
「私をからかっているのでは?」
「さあ、おいで」
 だがジョヴァンニはそんな彼女に対してまた言うのだった。
「私の愛しい娘よ」
「マゼットが」
「運命は変わるのだよ」
 またここでこんなことを言うジョヴァンニだった。
「そしてそれを変えるのは」
「もうこれ以上は駄目」
 遂に陥落せんとなるツェルリーナだった。
「もう」
「では行こう」
「ええ、行きましょう」
 そして陥落したのだった。
「私の恋人よ」
「そうだ、私はそなたの恋人なのだよ」
 内心満面の笑みを浮かべるジョヴァンニだった。
「汚れない愛の苦しみを和らげる為に」
「二人であの小屋に」
 こうして二人で小屋に向かおうとする。しかしここでエルヴィーラが出て来た。まさに今行こうとする二人の前に出て来たのだった。
「むっ、貴様は」
「ここにいたのね」
 ジョヴァンニはそのエルヴィーラを見て顔を曇らせた。
「まさかこの様な場所で出て来るとは」
「これこそ神の思し召しです」
 エルヴィーラは強い顔で彼に告げた。
「神は私に貴方の不実を見せてくれた。そしてこの娘を助けさせてくれうるのだわ」
「この方は?」
 ツェルリーナはそのエルヴィーラを見てきょとんとなっていた。少なくとも今小屋に行こうとする気持ちはかなり消えてしまっていた。
「一体」
「まあ待つのだ」
 ジョヴァンニはとりあえずここはエルヴィーラに優しい声をかけた。
「私は気晴らしをしようとしているだけだ」
「気晴らし。そうね」
 エルヴィーラはその彼女の言葉を聞いてもまだその険を消してはいない。
「私は貴方がどんなふうに気晴らしをしてきたのか知っているは」
「ということは」
 ツェルリーナは今のエルヴィーラのやり取りでもうジョヴァンニがわかってしまった。
「旦那様、若しかして」
「いや、これはだな」
 ジョヴァンニはそんなツェルリーナに優しい言葉をあえてかけて誤魔化そうとした。
「この気の毒な御婦人はだな」
「この方は?」
「私に惚れていてな」
「そういえば」

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