第五章 失踪
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(一)
考え事をしていると、突然、パソコンの画面にメール着信メッセージが映し出された。石井は目の前でうごめく磯田を無視し、アウトルックを開いてメッセージを読む。そこにはこうあった。
「保科香子が失踪した。新宿のマンションは売り出されている。」
あまりのショックに、冷たい戦争を忘れて思わず目の前の磯田に声を掛けてしまった。
「えっ、これって、本当ですか?」
石井がごく普通に話しかけるものだから磯田も、
「おお、それが・・うっ、うっ」
と咄嗟に答えてしまって、しまったというように顔をしかめ舌打ちした。そして、キボードに何かを打ち込み始めた。二人の沈黙に恐れ慄いていた龍二と佐々木が、ごくりと生唾を飲み二人の成り行きを見守る。石井は肩を落としぽつりと呟いた。
「やはり騙されたか。」
保科香子が懇願した時に見せた必死の形相を思い浮かべた。次の磯田のメッセージは辛辣だった。
「お前は騙されたんだ。もう、彼女との約束を守る必要はない。元刑事が聞いて呆れる。黙って見過ごすのか。千葉県警に報告すべきだ。」
石井はキーボードを叩きつけ、反論する。
「僕は彼女を信じる。彼女とは12月20日に再会する。」
「けっ、彼女は北海道、富良野に行ったはずだ。三日前、教祖の杉田啓次郎がお忍びで旅立った。おそらく一緒だ。富良野に雲隠れするつもりだろう。」
「よく、そんなことまで調べたもんだ。磯田さん、あんたは異常人格だ。」
「ああ、異常だ。ここ数日睡眠時間は3時間。あいつの身辺を探り続けていた。」
石井は腕を組んでしばらく考えたが、顔を上げ磯田を睨みつけながら龍二に言った。
「今日から三日休暇をとります。後の仕事は磯田さんが引き継いでくれるはずです。そうでしょう、磯田さん。」
むっとして磯田が答える。
「・・・やれることは、やります。しかし、やれないことはやれません。」
二人のやりとりを、まるでテニス試合を観戦するかのように、首を左右に振って見ていた龍二が厳かに仕事の指示を下す。
「分かった、磯田、やれることは代わりにやってくれ。やれないことはそれはそれで仕方がない。」
石井は憤然と立ち上がり事務所を後にした。
石井はそのまま羽田に向かった。富良野という地名は知っていたが詳しくは知らなかった。とりあえず札幌に飛べばいいと高をくくって飛行機に飛び乗った。午後1時には千歳空港の地を踏んだ。
空港職員に富良野まで行きたいと言うと、パンフレットをよこした。そこに載っている地図を見ると北海道のど真ん中である。「おいおい・・・」と呟きながらタクシーを拾い、札幌市内に向かった。富良野行きのバスが出ているという。
結局、バスに乗ったのは3時半を過ぎていた。コットンのジャケットでは薄ら寒いのでデパートでセーターを買った。約二時間半の道のりだ。
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