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予言なんてクソクラエ
第五章 失踪
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睡眠下で語られた心理学的用語や神経解剖学的表現は、どれも難解で発音しにくいものだが、その分野の専門家を唸らせるのに十分な正確さを以って発せられていたのである。そして、覚醒した彼は睡眠中何を語ったか全く覚えていない。
 そのリーディングに際し、彼に与えられた情報は患者の名前と住所のみである。睡眠下の彼は、その患者を探し出しその体にアクセスする。
「我々(常にこの表現が用いられた)はここにその体を捉えた。今、部屋を出てエレベータで下に下りようとしている」と、彼の意識が患者の周囲に存在して見ているように語る。そして病巣を見つけ出し、続ける。
「我々はこれらの症状が腸管自体というより十二指腸下部に起きた腫れからきているものであるのが分かる。」と、彼の目は患者の内部にも入り込み症状の原因を指摘し、その処方を語るのだが、その中には彼の生きた時代の最先端医療知識を超えたものまである。
 前述のごとく、ケイシーは睡眠下で語ったことを全く覚えていない。つまりその時点では無意識状態にいたことになる。睡眠下の彼自身の言葉を借りれば、
彼自身(ケイシー)の潜在意識が他のあらゆる潜在意識と直接交わ」ることが出来、そして「この方法で何千何万という他人の潜在意識の有する知識の全てを収集する。」つまり、彼の情報の源が集合的無意識であることを自ら語っているのである。

 エドガー・ケイシーのこの言葉を知って、母親は集合的無意識に瞬時に入り込み石井の意識にアクセスしているのだと理解した。実際に繋がっていたからこそ、母は、見たこともない石井の友人の名前と出来事を言い当てたのである。
 石井は、母親のその能力を見て育っていたから、生来予言を信じる性質の人間だが、この度の世界的規模の大災害という予言には、何かしら胡散臭さを感じている。しかし心の片隅に或いはという恐れもある。
 石井は、刑事時代に一度死の淵をさ迷った経験から、それほど死に対して恐怖心を抱かなくなった。たとえ、大災害が起こって死ぬことになったとしても、それは運命として受け入れる心の準備は出来ている、と自分では思っている。
 しかし、それを三枝に説得することなど不可能であることも分かっていた。誰を差し置いても自ら助かろうとするのが本能なのだ。悟りきったことを言う石井でさえ、恐怖に駆られパニックに陥れば、どんな行動をとるか分かったものではない。

   (二)
 いつのまに寝入ったのか、ふと目覚めると、先ほどまでのうっそうとした草原に代わって、道の両側はちらほら潅木散在し、それが後方へと走り去る。荒涼とした景色は火山が作り出した風景だろうか。名も知らぬ山の影を見ながら再びまどろみへと戻った。
 富良野の町へ着くと、すでにとっぷりと日は暮れていた。荒涼とした町並みを思い浮かべていたが、それがとんでもない間違いだと
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