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コシ=ファン=トゥッテ
第二幕その十九

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第二幕その十九

「この宴の中で結ばれるとは」
「何と幸福なのか」
「デスピーナにはお礼をしないとね」
「そうね」
 姉妹はデスピーナのことも話すのだった。
「ここまでお膳立てしてくれたんだから」
「絶対にね」
「じゃあいよいよ」
「式に」
(しかしな)
 グリエルモはここでふと思うのだった。
(ここにあるワインが毒ならな。この姉妹に相応しいんだけれどな)
(しかしアルフォンソさんは)
 フェランドも思う。
(何を考えてるのかな、本当に)
 わかりかねているとここでそのアルフォンソが四人のところにやって来た。そうしてそのうえで彼等に対してにこやかに言うのである。
「それでは皆さん」
「はい」
「いよいよですね」
「そうです。全ては整いました」
 穏やかに四人に告げるのだった。
「あとは婚姻の証書を持った公証人が来ますので」
「ではすぐに公証人の方をこちらに」
「是非共」
「わかりました。それでは」
 アルフォンソはそれに応えてすぐに人を呼んだのだった。
「ベッカヴィヴィさん」
「はい」
 すぐにその人が出て来た。それは黒い服にもじゃもじゃの茶色の髪に眼鏡をかけた小柄な男だった。縁の大きな帽子までしている。
「御呼びですか?」
「こちらです」6
 アルフォンソはこう言って彼を案内する。しかし彼の声はよく聞けばデスピーナのものであった。
「こちらにその結婚をする相手がいます」
「そうですか。それではです」
「何処かで見たような気がするな」
「そうだな」
 フェランドとグリエルモは彼、実は彼女を見て言い合うのだった。
「誰だったかな」
「この声は」
「皆さんの幸多い未来を祈りつつ」
 しかしデスピーナは芝居を続ける。
「私こと公証人ベッカヴィヴィは」
「はい」
 そしてアルフォンソがそれに応えるのだった。
「毎度の公証人らしい威厳を以ってこちらに参りました」
「それは何よりです」
「法の定めるところにより」
 デスピーナの芝居は続く。
「まず咳払いをし」
「どうぞ」
「こほん」
 実際に咳払いもしてみせる。
「それでは読みましょう」
「誰かに似てるわよね」
「そうよね」
 フィオルディリージもデスピーナもそれに気付いたのだった。
「何処かで見たような」
「しかも間近で」
「誰だったかしら」
「私が作りましたこの証書」
 デスピーナは四人の詮索を遮るようにして言葉を続ける。
「これにより婚姻が整えましたるは」
「はい」
「それは」
「フィオルディリージとセンブローニオ」
 フェランドの偽名である。
「その実の妹の」
「私ね」
「ドラベッラとティチオでありますな」
「はい、そうです」
 今度はグリエルモが頷く。

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