第一幕その六
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第一幕その六
「今もそれがありありと目に浮かびます。その時のあの娘の姿が。恐怖のおののきと儚い抵抗と共にあの娘が連れ去られるのを」
「何ということ」
「ですから」
さらに言うのだった。
「娘の嘆願も私の役には立ちませんでした。ですが貴方は」
「僕が」
「それを救ってくれます。ですからどうか」
こう言ってそれで静かに夜の中に消えるのだった。そして残ったタミーノは。
「僕が見たものは」
「どうしたのですか?」
「一体」
「現実なのか」
女王がそれまで浮かんできたところを見上げながらの言葉だった。
「それとも五感が僕を欺いたのか」
「いえ、どちらでもありません」
「それは」
「では本当に」
「フム!」
ここでまた叫ぶパパゲーノだった。やはり喋れない。
「フム!」
「可哀想だけれどね」
タミーノは彼にはそのまま同情した。
「しかし僕には」
「パパゲーノ」
「それももう終わりです」
しかしここで侍女達が彼のところに来て言うのだった。
「女王様が許して下さいました」
「ですからこれで」
「喋りなさい、好きなだけ」
「やっとか」
口の錠を外されてやっとほっとするのだった。
「喋れるんだな」
「けれど嘘は駄目よ」
「いいわね、それは」
「わかったわね」
「ええ、よくわかりましたよ」
もう懲り懲りといった顔だった。
「これでよくね」
「ではこの錠を戒めに」
「そうします、本当に」
「嘘吐き共の口を」
侍女達はさらに言うのだった。
「全てこうして防いだらその時は」
「憎悪と中傷、腹立ちが全て」
「愛と友情に変わるでしょう」
「そしてです」
あらためてタミーノに顔を向けてあるものを出してきたのだった。
「これをです」
「どうか貴方に」
「お受け下さい」
「それは」
見ればそれは一本の笛だった。横笛で少し曲がっている。黄金の輝きが神々しい。
「貴方が危機に陥った時にはです」
「この魔笛が貴方を救ってくれます」
「ですから」
「この笛が僕を」
「そうです」
まさにその通りだというのだ。
「この魔笛があればどんなことでもできます」
「まさに全てのことがです」
「人の気質さえ変えられ」
その言葉が続く。
「悲しみを晴れやかにさせ愛を知らない者もその虜をします」
「それだけのものがあるのですか、この笛には」
「そうです」
「その通りです」
まさにそうだというのだ。
「この笛にはそれだけの力があります」
「黄金や王冠よりも尊く」
「人を変えることができるのです」
「成程」
「それでなのですが」
ここでまた言うのはパパゲーノだった。
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