病み六花の自己中が解放される時・前編
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ジコチュートリオなんていなくても、人の自己中心的な心は解放される。
(遅い……)
駅前にある広場の中で、菱川六花は何度も腕時計を確認する。もはや秒針が一つ動くたびに苛々し、六花は繰り返し足裏で地面を叩いていた。
せっかく、一緒に買い物をする約束をして、今日という日を楽しみに迎えたのに……。
相田マナが、待ち合わせの時間になっても現れないのだ。
(……もう十分も過ぎてる)
まだまだ日曜の朝、時間がまるっきり潰れるわけではないけれど……。
それでも、マナと交わしたはずの約束を思い出す。
「ねえ、駅の方で新しい店が出来たって知ってる?」
マナが不意に話を切り出してきたのは、ついこの前。
共に歩く通学路の上で、帰り際にマナは誘いかけてくれたのだ。
「色んな洋服があるみたいだから、日曜日に一緒に覗いてみない?」
「うん! 行きたい行きたい!」
マナがデートに誘ってくれた。
大好きなマナと、二人きりでお出かけできる。
もうそれ以上嬉しいことなんて他になくて、今にもニヤニヤしてしまいそうな顔を取り繕うのが大変なほどだった。
それなのに――。
(まだ来ない)
腕時計の時間を見れば、もう十五分は過ぎていた。
いや、来るはずだ。
駅を行き交う人混みから、今にも「遅れてゴメン!」と言いながら、申し訳なさそうに六花の元へ駆け寄ってくるはずだ。
そう思って人の波からマナを探すが、来ていない人間の姿があるはずもなかった。
(どうして? 何で連絡もないの?)
遅れるのならメールくらいくれてもいいはずなのに、それさえもなく時間が過ぎて行く。
もしかしたら、途中で事故にでも遭ったのか。それとも、いつものように誰か人助けでもしているのか。
心配になって六花の方からメールを送るも、返事はない。
電話をかけても、出てはくれない。
マナは一体、どこで何をしているのか。
(もう二十分過ぎた)
人混みの中から女の姿が見えかけて、それが自分の方向へ向かってくるたびに期待する――やっとマナが来たのかと。
しかし、現れる女性は単なる他人で、むなしく六花を横切っていくだけだった。そんな事が何度も何度も繰り返され、だけどそのことごとくがマナではない。今か今かと待ちわびているのに、無情なまでに焦らされる。
(いつになったら来るの? マナ、マナ、マナ……)
待っても待っても現れない。
待たされるばかりの状況が耐えられなくなって、六花は再びメールを送る。
返事はない。
もう一度送る。
それでも、返事はない。
しかし、それ以外に六花の気を紛らわせるものは他になく、返事の来ないメールを何通にもわたって送信した。電話も入れた。送ったメールに一分以内に返事がなければ電話をかけ、出て
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