GGO編
百二十話 導く温もり
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ったって……勘弁してくれ本当に……」
益々肩を落とした和人を見て、ひとしきり虐め倒した事に満足したのか、詩乃はクスリと笑うと肩を竦めて言った。
「ま、もう良いわ別に。二度目は無いだろうし」
「寛大なご処置に感謝します……」
頭を深々と下げたキリトに少し吹きだした時だった。
華奢なワゴンに幾つもの皿と食器を乗せて、先程引っ込んだウェイターが戻ってきた。カチャリと言う音一つ立てずに並べられ、菊岡の手振りで食べるよう勧められると同時に、美雨の眼が輝いた。
「頂きま〜すっ!(はぐっ)……ん〜〜!」
自らが頼んだ季節のフルーツタルトを口に運んで一秒して、美雨は頬を押さえながら体をくねくねさせ始めた。こういう所は成程。確かにアイリの物だと、涼人も詩乃も素直な感想を内心で漏らす。
そんな美雨を見て微笑を浮かべつつ、詩乃は目の前にある赤いソースの掛かった白いチーズケーキを一口、口に含む。濃縮したようなチーズの味が口の中にさっと広がるとともに溶け消え、驚きつつも更に一口。さらに一口と食べている内に、何時の間にか半分ほど食べてしまいフォークを置くと紅茶を一口。ほのかなオレンジの香りと共に口の中に鮮やかな風味を残すそれを飲み込んでから、思わず。と言ったように詩乃は呟いた。
「……美味しいです」
「ほんと……こんなにおいしいケーキ食べたの始めてかも!」
「ははは。まぁ、本当なら美味しい物はもっと楽しい話をしながら食べたいものなんですけどね。また今度付き合って下さい」
嬉しそうに笑ってそう言った菊岡に、少し詩乃は戸惑う。
「は、はあ」
「あ、詩乃、きっとこれナンパだよ!」
楽しげにそんな事を言ったアイリに、詩乃は少し目を向いて慌てる
「ち、ちょっとアイリ!……じゃなくて、ええと」
「美雨で良いよ〜。女の子はみんなそう呼ぶしね」
ニコニコと笑ってそう言った美雨の顔を見ながら詩乃は一瞬戸惑ったように言葉を詰まらせた。
下の名前で呼ぶと言うのは……何と言うか、距離が近すぎる気がしたからだ。詩乃の知る限り、名前同士で呼び合うと言うのは、在る程度女子としては近しい中の人間の身が行う物であって、そう言う人物が極端に少ない彼女は、そう言った経験が余りなかった。
しかし……
「……?」
奇異も、悪意も全く見えない。まるで清水のように澄んだ、そして真っ直ぐな瞳で自分を見ながら、コテンッと首をかしげた美雨を見ていると、詩乃は不意に自分がそんな事を考えているのが、馬鹿馬鹿しく思えてしまい、思わず吹き出した。
「え、なんで笑うの!?私の名前なんか変かな!?」
「別に、そう言う事じゃないけど……分かったわよ、美雨」
「はーい!」
「(ガブッ)…………」
元気よく返事をしたアイリに苦笑しながらもう一口紅茶を飲もうとして
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