第7話 最後は封印して終わりですよ?
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香りを感じる。
そして、その瞬間、紡と一誠の姿は、この黄泉の国への入り口から、自らのコミュニティにて待つ人々の元へと帰って行ったのだった。
☆★☆★☆
湯気の充満した、息苦しいまでの浴室。但し、昼間に経験した霧に閉ざされた洞窟のような鬱陶しさや、ジメジメとした嫌な感覚はなく、むしろ、昼の間の疲れを取るに相応しい弛緩した雰囲気に包まれた、爽やかな香気に包まれた場所と成っていた。
美月が広い風呂桶から汲み上げたお湯を、かなり男らしい仕草で頭から一気に被った。
もっとも、これは折角、存分にお湯が使えるようになったのですから、少しぐらい贅沢にお湯を使ったとしても罰は当たらないでしょう、……と言う美月の心の現れ。
矢張り、何事にも気分や雰囲気と言うのは重要ですから。
爽やかな香気の付いた、少し熱い目に沸かされたお湯の熱が肌に心地良く、黄泉比良坂にて身体に染みついた死の穢れを、一気に洗い流されるような気もして来る。
そう。その爽やかな香気の正体は菖蒲。菖蒲とは、古来、中国ではその形が刀に似ている事や、爽やかな、まるで邪気を祓うような香気を持つ事から、非常に縁起の良い植物とされて居り、また、日本でも菖蒲と言う言葉の響きが、尚武や勝負に通じる事から縁起の良い植物とされている。
そして、今晩の入浴には、身体に染みついた死の穢れを祓う為に、しょうぶ湯を村の子供たちが準備していてくれたのだ。
おそらくこれは、白娘子が子供たちを指揮して準備してくれたのでしょうが。
湯船に足だけを入れ、縁に腰掛け、ぼんやりと窓から覗く夜空を見つめて居た美月の背後から、お湯を被る水音が響いた。これは、洗い場で未だに身体を流しているハクが石鹸を流した時の音。
術を行使する際は、凛とした姿と、とても頼もしい、まるで自らの姉のように思えて来るハクなのですが、その反動か、日常生活を営む上では少しおっとりとし過ぎて居る時の方が多いのも事実。
頭の回転が鈍いとは思えませんし、そうかと言って、狙って不思議ちゃんを演じて居るようにも見えない。
もしかすると、本当に良い所の御嬢様かも知れないな。
そう考えながら、振り返ってからハクを見つめる美月。
その視線の先。湯気の向こう側から聞こえて来る水音。そして、美月の予想通り、ややぎこちない仕草で長い黒髪を流し初めているハク。
少し微笑みを浮かべてから、湯船に浸かろうとした美月はもう一度洗い場の方に上がる。
そうして、
「髪を洗って上げるわね、ハクちゃん」
少し泡立て過ぎた石鹸に悪戦苦闘中、としか見えない黒髪少女に対してそう話し掛ける美月。
その時、湯気に隠された向こう側から現れる美月の象牙の肌と、……そし
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