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Verweile doch! Du bist so schon.
Verweile doch! Du bist so schon.
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[1] 最後
 ふと、声が聞こえた気がした。
 振り返ってみると、そこには特に何があるということも無く。
 ただ、人間だった肉塊が落ちているだけである。
 何だ、先程俺が殺した人間か。
 興味を持つことはない。邪魔だったから殺した。それだけだ。何かを殺すことに、大した理由は必要ない。
 好きなように振る舞い、好きなように殺す。総ては自分のために。飽くなき欲望をどこまでも。
 悪魔とはそういう存在であるのだから。
 そこには限界も妥協点も存在しない。知り合いの悪魔には、一人の人間を使って神と賭けをしたなんて悪魔もいるくらいだ。まあ、俺は神や天使なぞ関わるのも御免だがな。あんな連中、見ているだけで吐き気が湧いてくる。気持ちが悪い。
 清廉潔癖? 馬鹿馬鹿しい。死臭が漂ってくるくせによく言ったもんだぜ。
 別に誰をどのくらい殺したのかなんてどうでもいいがな。あんな矜持の無い連中を俺は認めはしない。
 声は気のせいだったのだろう。そう脳内で処理し、自らの拠点への帰路へと着く一体の悪魔。
 人間のようなその体は黒く、細長い尻尾と体格が特徴的である。背中からは黒い骨のような触手が数本生えており、ぴくぴくと蠢いている。
 だるそうに地面を歩く悪魔。生い茂る草木が、体からあふれ出る瘴気によって足元から腐り落ちていく。
 その遥か後方。上空に浮かぶ一つの影。
 それは人間か、天使か、はたまた神か。銀の神を棚引かせ、ふわふわと浮いている女性。
 口角を上げ、その体は消失する。そして数瞬の後、悪魔の目の前に。

「――――ぁあん?」

 誰だ手前は。俺の目の前に立ちふさがるとは、意味をわかってんだろうな?
 虹色の光と共に突如として目の前に現れた存在に対し、威嚇をする悪魔。
 見たところ大した存在には見えないが。一体何者であろうか。気配も感じさせずにこの俺の前に現れるとは、並み大抵の存在ではないはずだ。あの神の野郎ならできてもおかしくは無いが……。
 目の前の存在に対して観察と思考を始める悪魔。その好奇心は、彼女に向かい始めている。
 ――――フフッ。
 興味ありげに悪魔を眺め、微笑を向ける彼女。その笑みは幽玄的であり扇情的であり――――何よりもこの悪魔にとってこの上なく魅力的であった。
 虹色の光を纏う彼女に対して、悪魔は何も言うことはできなかった。言葉を失うとはまさにこのことである。悪魔の知りえるどんな知識であろうと彼女を形容することはできなく。そしてその行動に意味はない。
 彼女は去っていく。虹色の光を撒き散らし、悪魔の目の前から消えていく。彼にはそれをただ呆然と眺めていることしかできなかった。
 彼女がいた部分をいつまでも凍りついたかのように見つめていた悪魔。動いたかと思いきや、彼は唐突に嗤い始めた。血に塗れた草原に響く狂笑。
 
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