十五話
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刃物の輝きが自分の思考を落ち着けてくれる
手の内にあるのは小さなナイフ。良く砥がれた刃は切れ味鋭く、もしこのまま手に沿って添わせでもすればたちまちに肩にある様な傷跡が出来、その痕から血が浮き上がるだろう
薄暗い部屋の中でさえ光を反射し、鈍く輝くそれを見ていると自分の意識が吸い込まれそうになるのを感じる
それを意識しながら、自分が何をしようとしているのかを考える
何度も自問自答し出した答えだ。迷いなどなく、後悔もない
ずっと考えてきた答えを示し、迷いを断つ明確な証を今行うのだ
手の内で遊ばせていたナイフを利き手で以て順手で持ち、逆手で髪を掴んで持ちナイフを首筋に近づける
肌に触れた金属の冷たさが心地良い
それと同時にその冷たさが最後にもう一度思考を働かせる
してしまっていいのかと、まだ間に合うのだと。そして、こんなことをしなくとも問題はないんじゃないかと
だが、もう決めたことだと迷いなくその思考を破棄する
そもそも、これは証だけでなく逃げるためでもあるのだから
最後に軽く息を吐き、肩に小さく残る傷を指でなぞる
そして金属の冷たさを感じながら手に力を入れ
そのまま、ナイフを強く滑らせ切り裂いた
いまだ時早く、人気の少ない早朝
昼ごろに比べ低い気温がどこか空気の透明さを感じさせ、動くものが少なく時が止まったかのように思える景色
多くの人が日中は動く大きな屋敷もそれに違わず、人の景色を薄れさせている
そんな中小さな、キィ、という小さな音がその静寂に飲まれながらも静かに響いた
それは静かながらも断続的に響き、同時に少しずつ開いていく窓が止まっていた時を動かす
少しずつ、少しずつと開かれていった二階の窓はある程度十分なだけ開かれるとその動きを止めた
そのまま動きを見せず、暫し時間が経った後ショートヘアーになった一人の少女が顔を外に覗かせる
少女は周囲を見渡し、問題がない事を確認すると手にカバンを持ちそのまま窓の外に体を乗り出させ、外に出る
窓の外すぐ下にある縁に足を乗せてその場に立ち、開いたままの窓を外から閉める
カバンを動かぬように腕で抱え、視線を上に向けたまま軽く屈んで上に跳んで屋根のヘリを掴む
そのまま掴んだ手に力を入れ、少女は体を上に上げた
少女は出来るだけ音が立たぬ様に注意したまま屋根の上を駆け、家の裏側に着くと同時に屋根を蹴り、身を空中に躍らせる
足、腰、背中、肩の順に着地し回転して勢いを殺した少女は、少し汚れてしまった服のまま足早に姿を隠すために木々の中へと入っていく
最初から最後まで気配を殺していた少女に気づいた者は無く、止める者はいない
最後に一度、屋敷の方を振り返った少女は、そのまま姿を消していった
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