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王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の2:迫る脅威
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 叢が風にがさがさと揺れる音でユミルは目覚めた。瞼の隙間から入ってくる光の眩さに意識が無理矢理揺り起こされ、目端の目やにのがさついた感触を味わう羽目となった。光の差しこみ具合からして朝の9時頃か。どうも寝過ごしたらしい。
 彼は不快感を覚えながらもベッドから起き上がって、護身用の剣を手に取って屋外へと出ると、ひんやりとした外気、そして色褪せた森の風景が出迎えてくれる。もうタイガの森では冬を感じられる季節となっていた。風によって茶褐色の枯葉が地面を滑り、枝木が意思でもあるかのようにもぞもぞと動いている。どうやらリスか何かが冬眠に向けて食糧を探しているようであった。擦れ違うエルフらの表情は不安げであり、兵士らの厳めしいものとはいたく対照的であった。
 近くの川にまでユミルは足を運び、手先が痺れるような冷水で顔をぱしゃぱしゃと洗う。エルフ領に来てからの日課がこれであった。口の中も何回かゆすいで頭をはっきりと目覚めさせると、彼はそのままパウリナが留まっている家へと向かう。その家にはキーラやリタも留まっているのだが、この時間だ、既に起床してそれぞれの活動に従事しているだろう。

「おはよう・・・」

 遅まきの朝の挨拶を聞く者は矢張りいなかった。ユミルは自らの不摂生さに溜息を零しながら屋内に上がり、パウリナが帰って来るのを待つ事にした。昨晩遅くから盗賊等を偵察するために出掛けているのだ。そろそろ交代の時間だろうし、待つのも悪くは無い。
 ふと、ユミルの目に一冊の本がとまった。エルフ側から借りている資料と比べるとかなり真新しい。どうやら日記帳のようであった。裏表紙に書かれた『パウリナ』という名前を見て、ユミルは妙な気持となりながらページを開く。

「・・・『睨み合い三日目。正直眠いけど監視を続ける。朝から晩まで私が出来るといったらこれしかない。キーラちゃんはイル=フードと一緒に作戦の立案、御主人や兵士さんは他の皆に急ピッチで武器の使い方を教えている。私も混ざりたい。御主人の指導をあっちこっちで受けてみたい』。
 『睨み合い五日目。また敵の数が増えた。どうやら周辺から流れてくる賊や浮浪者が盗賊団に合流しているらしい。勝ち馬に乗ろうとしているのか。ヒキョーだ。こっちは森から抜け出そうとする人が出てきているというのに。逃げ出そうとする人を身体を張って制止する御主人が恰好よかった。正直惚れる』」

 くらっとするような感じを味わう。『何とも惚気た中身ではないか』と呆れ半分、そして、『此処まで想われているとは想像してなかった』と動揺半分である。彼女も一人の女性なのだと改めて知るような思いであった。
 ユミルは更に読み進める。

「『睨み合い六日目。御主人が差し入れを持ってきてくれた。冬越し用のジャムを取り出して作ったという、甘いサンドイッチだ。これも
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