暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の2:迫る脅威
[9/10]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
活躍して回ったらしい。やつの騎士団はそれこそ精鋭中の精鋭でな、帝国も恐れたものだ」
「レイモンド様も、ですか?」
「ああ。一度奴と戦場で邂逅した事があったよ。・・・恐ろしかったな。爪先から髭に至るまで凍り付くような感じがしたぞ。陣地に生還した後でも生きた気がしなかったな」

 それを聞いてミルカはふと思い出す。レイモンドは嘗ては帝国軍の一兵士であったのだ。作戦行動中に頭部に重傷を負った後は後方支援に回り文官として務め、それが今では王国の政を一手に担う重鎮である。映像から目を離して、ちらりと老いた肌に刻まれた深い皺を見遣る。この皺が出来るまでに彼はどれ程の苦労を覚えたのか、年若いミルカには想像の付かない事であった。

「・・・ん?どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません」

 ミルカは再び映像へと視線を戻す。どうやら平原では雲一つない晴れ空であるようで、兵士等の影だけが地面に暗い色を落としていた。ふと、頭上に大きな黒い影が横切った。初めは鳥の群れであるとミルカは錯覚したが、しかし映像に映る兵士等の表情がそれを否定していた。一様に困惑のそれを浮かべている。そして影が大きくなるにつれて、その表情は恐怖の色を深めていった。 
 巨大な影が地面に近付いてくと、不思議な事に平原に強い風が生まれた。兵士達の毛髪や衣服がばたばたと揺れる。そして一段の強い振動が映像を揺るがすと同時に、ぐるりと映像が切り替わり、影の正体を正面から捉えた。ミルカとレイモンドが驚愕によって瞳を開く。

「っ、あれは・・・!?」
「・・・蜥蜴(とかげ)、だと?」

 地に降り立ったそれは、獰猛な眼光を放つ巨大な蜥蜴ともいうべき姿をしていた。蜥蜴であると断定できないのは、それが後ろの二本足で人間の二十倍にも及ぶやもしれない巨体を支えている事、頭頂部より生える鱗がぼやけた映像から分かる程に硬質である事、そして何より胴体より生える極大の二枚の翼が生えている事が関連していたからだ。閉じられた上唇から俄かに覗く鋭い牙は、その気になれば人間を串刺しに出来るものであろう。
 突如として来訪した巨大な蜥蜴に、兵士達は困惑と怯えを隠せない。魂まで射抜かれたように誰しもが身を竦ませて、互いを牽制し合っている。まるで前に出る者が最初の犠牲者であると、本能で理解しているようであった。そうこうしていると、一人の騎士が前へと進んだ。黒衛騎士団長の熊美である。獲物の3メートル弱のハルバードを下ろしながら、蜥蜴に向かって叫んだ。

『翼のある蜥蜴よ!貴殿が人の言葉を解するのならば、どうかその獰猛な牙を収め、我らと理性ある対話をしてほしい!!返答や如何に!!』

 明朗なる声を機に、その蜥蜴は凶暴な瞳をじろりと動かした。熊美は馬を後退させる事無く、真っ向からその視線を受ける。自らの数十倍は
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ