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王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の2:迫る脅威
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もった声が発せられる。

『御報告です。西の平原で行っていた軍事演習ですが、最後の予定である大行進の準備が整いましてございます』
「そうか。よく見えるように映せ」
『かしこまりました』
「・・・執政長官様、別に演習くらい見なくても大丈夫ではありませんか?」
「お前の剣の師匠がどんな活躍をしているのか、興味が無いとは言わせないぞ、ミルカ」

 少し気恥かしげにそっぽを向いた後、ミルカは大人しく頷く。

「見させていただきます」
「宜しい。では部屋の鍵を掛けろ」

 言われた通りにミルカは部屋を掛け、更に壁に点っていた蝋燭の火に息を吹き掛けて消した。窓の幕の隙間から毀れる光が無ければ、今が夜半であるかと思えるほどに部屋が暗くなった。
 レイモンドは水晶を壁際に運ぶ。するとぼやけた映像が石の壁に移りだした。対面する場所に椅子を運んで腰かけると、レイモンドは自分の膝の上を軽く叩く。ミルカは頬を俄かに赤らめた。

「そういうのは夜になってからします。今は我慢してください、レイモンド様」
「そうか?喜んだように見えたのだが?」「っ・・・知りません!」

 不貞腐れるように言いながら彼はレイモンドの傍に控える。欲求がむくりと首をもたげ掛けたが、しかし残念ながらそれに耽る時間は無いようであった。壁に移された映像がはっきりとしていき、やがて沢山の人の群れが見えるようになってきた。
 それは軍隊の隊列であった。総勢二千人と二百もの騎馬、そして10の大砲が整然とした様子で冬風を迎える平原を歩んでいる。それぞれの隊を率いる軍団長は勇壮に背中のマントをはためかせ、兵士等の先頭を悠々と行進する。音を伝える機能が控えめになっているのか、大地を震わすような響きは伝わってこなかったが、その迫力は移り行く人の群れを見るだけで十分に理解出来た。
 騎士団を率いているのは近衛騎士の騎士団長であるオルヴァ=マッキンガー子爵、そして黒衛騎士団団長である、矢頭熊美であった。

「おお、見事な隊列ではないか」
「レイモンド様・・・軍団の先頭に居るのって、あれ、帝国の士官ではありませんか?」
「そうだぞ。我らの軍事権はほとんど無いに等しいからな。こうした大規模な出兵の際には、帝国側から士官が派遣されて監視を受ける事となっているのだ」
「・・・この国って、本当にダメなんですね」

 冷ややかな突っ込みを他所に映像は騎士団を率いる熊美を中心とするように切り替わった。鍛錬の時よりも精悍な顔つきとなっている熊美を見て、レイモンドは噴き出すように言った。

「クマミめ、何時も以上に張り切っておるな?あんな勇壮な顔をしおってからに」
「付き合いが長いんでしたっけ?」
「ああ。三十年前の戦争では戦地を転々としてな、幾多の死線で文字通り修羅のように武を奮って、
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