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愛しのヤクザ
第十八章 エピローグ
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「課長、久美子の告別式どうします?用事でもあるんですか?」
相沢がようやく答えた。
「勿論、行くよ。ごめん、ちょっとショック受けちゃって」
「良かった、久美子も喜ぶよ。でも驚いたねー、やっぱり二人は仲良かったから、旦那があの世から呼んだんだと思う。だって、旦那が死んでからちょうど1年目だもの」
「二人は仲良かったの?」
「ああ、いつまで経っても、まあ、子供がいなかったせいもあるけど、まるで恋人同士みてえだった。その旦那が心臓病で死んじまって可哀想だった。だいぶ前から心臓の発作に苦しんでいたらしいんだけど、誰にも言わずに病院にも行かなかったらしい」
 久美子は旦那の死後、伸ばしていた髪を切り、かつてのショートカットに戻したと言う。
まるで旦那に操を立てたみてえだと林田は言った。その時、相沢は久美子の幻影を見ていた。様々な場面で表情を変えながら目の前で微笑んでいる。涙が溢れた。

 健康ランドに着くと林田と清水が待っていた。清水は照れながらマネージャーという名刺を差し出した。物腰が客商売のそれになっており、紳士然として元暴走族だったという雰囲気は微塵もない。
 本社の次長に挨拶とばかりと現れた支配人は相沢の知らない人間だった。向井は相沢の代わりに新天地名古屋でその経験を存分に発揮しているはずだ。石塚調理長は浅草の高級料亭の調理長に納まっている。
 ひとしきり懐かしい昔話に花をさかせ、頃合いをみて腰をあげた。3人は相沢の車で告別式に向かう。相沢は運転しながら二人の会話に耳を傾け、割って入っては声を上げて笑い、そして一人物思いに耽った。

 八王子の泉岳寺に着いて、3人は声をあげ、その異常さに驚いた。そこはまさにヤクザの世界だ。それははじめから分かっていたはずなのに、その規模は想像を遙かに越えていた。寺の駐車場は警官とヤクザがごった煮みたいになって車の整理に追われている。
 ヤクザの親分とおぼしき人物とそれを取り巻く子分達。黒の喪服の群れが艶やかに微笑む女組長、久美子の面影を偲び、そしてそれぞれの思いに耽る。数奇な運命に翻弄された女に対する思いは一つであろう。
 愛した旦那の後を追うように、ただ一人、夜を疾走し、そして死んだ。愛車、ジャガーとともに。マスコミが飛びつかないはずはない。それ以前から、久美子はマスコミの餌食にされていた。美人でインテリの女組長として。
 カメラの放列が相沢達を迎えた。たまたま相沢達と並んで歩く恰幅の良い紳士に向かってシャッターの音が一斉にしかも数秒続いた。清水がかっとなってカメラマン達を怒鳴りつけた。
「てめえら、誰に断って写真撮っているんだ」
この声とともに、またしてもシャッターの音が鳴り響いた。数週間後の写真雑誌にその親分の身内として紹介されようとは、清水は思いもしなかった。

 久美子の遺影
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