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愛しのヤクザ
第十七章 転勤
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けど、どうやって強奪したんですか」
三人がくちを揃えて「しー」と言って唇に人差し指を立てた。林田が清水に声をかけた。
「おい、清水」
今度は清水が隣に座り、相沢の首に腕を回し、耳元で囁く。
「俺、昔、ひったくりやったことありまして、けっこう上手かったんです。オートバイは道に乗り捨てて、鞄の中身だけ頂いてこれはゴミ捨て場に置いておきました。そして、部長の机の上に置いてあるのがその中身と言うわけです。ちなみに、逮捕歴はありません」
相沢は振り向いてそれを見た。段ボール箱が机に置いてある。相沢は立ち上がり、それに近づいた。段ボール箱には佐川急便の宛名シールが貼られている。向井が声をかけてきた。
「山本が警察に通報できない訳が分かったよ。その中身は台帳だ。いわゆる裏帳簿。山本さんは直轄事業の責任者だ。業務上横領の罪にも問われかねない。直轄事業のレストラン、喫茶、エステ、映画館等々の裏帳簿だ。それを善意の第三者が道で拾って、今日、親切にも佐川急便で本社経理にお送り申し上げるという手はずになってる」
相沢はこみ上げる興奮と感動で身体が震え、「きゃっほー」っと心の中で叫んだ。そして
声に出して皆に言った。
「やっぱり乾杯だ。向井支配人、林田君、清水君、本当に有り難う。今日の事は一生忘れられない。人生最高の記念日だ。さあ、乾杯しましょう」
四人で声を揃えた。そして、一気にビールを空けた。相沢はやはり我慢できなかった。だから叫んだ。
「きゃっほー」 

 数日後、山本直轄事業本部長は解雇された。安藤常務は山本が最後までその名前を出さず、首は免れたものの6月の株主総会で更迭されることになったらしい。こうして、相沢は全面勝利し、オープン以来の確執の種は取り除かれ、どたばた劇はフィナーレを迎えることになった。

 奥多摩の峰峰が雪ですっぽりと覆われる頃、相沢は本社に呼ばれた。店は何もかも順調に推移しており、相沢は名古屋のプロジェクトの主要メンバーとして本格的に参画しなければならない時期に来ていた。
 ここで知り合い、共に辛酸を嘗め、喜びを分かち合った人々と別れるのは非常に辛いものがあったが、サラリーマンである以上、それは仕方のないことなのだ。いよいよという思いで本社総務部にやってきた。
 山田は例によって応接に相沢を迎え入れ、以前と同じように季節はずれの異動の話をしようと、にやにやと相沢を見詰めている。健康産業事業部への異動もこんな状況で内示があったのだ。しかし、今度は辞令らしきものを手にしている。そしてその口が開かれた。
「とりあえず、これを見てください。話はそれからにいたしましょう」
と言って辞令をテーブルに置いた。その辞令を手に取り、じっと見入った。開いた口が塞がらなかった。そこにはこうあったのだ。
「香港店総括課長を命ず」
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