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愛しのヤクザ
第十三章 罠
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うだった?」
「それこそこんな顔してましたよ」
山本がよくやる下から睨め付けるような顔を真似た。片桐は笑いながら言った。
「その顔よく似てるよ。山本さんの表情見ているとヤクザ映画の見すぎじゃないかと思うことがある。ところで、今も向井さんと話していたんだけど、山本さんは銀行回りが好きみたいだね」
相沢はおやっと思った。小倉部長も同じことに興味を持った。
「誰に聞きました?」
「勿論、向井さんからだよ」
向井が反論する。
「よく言うよ、片桐さんが山本の銀行回りは本当か?って聞いたんじゃないか」
相沢は心の中でにんまりと頷いた。どうやら小倉部長から片桐に電話が入った。銀行回りのことを確かめろと。何かある。そう確信した

 厨房へ上がってゆくと、林田と石塚調理長が何やら話し込んでいる。相沢に気付くと、二人は目配せして座敷に誘った。3人は憂鬱な顔で額を寄せ合った。今日の結果は電話で林田に話してあったのだ。石塚が言う。
「課長、よくやった。でも、自分の立場も考えろ。今後は、何もなかったように山本に話しかけろ。それがサラリーマンってもんだ。いいな、そうしろ。ただ、どうしても我慢出来ないというなら、就職は俺に任せてくれ。こう見えても人脈には自信がある」
「有り難うございます。ご心配かけます。でもご安心下さい。僕は負けません。あいつ等に何としても一矢報いてやります。辞めるとしてもそれが成就できてからです。それまでは何としても、どこに飛ばされようと居残ります」
「偉い、課長、それが肝心だ。サラリーマンなんて浮き沈みあってこそ成長する。復讐心を賞賛するわけではないけど、いつか見返してやるという思いは大切だ」
林田も嬉しそうに同調する。
「課長は、この世の終わりみてえな声だすもんで、ちょっと心配しちゃったよ。でも今の言葉聞いて安心した。俺も手伝うから、何とかしましょう」
「ああ、分かってますって、今日は初戦を開いたと思っている。まずは、あいつ等の鼻先にカウンターパンチを食らわせてやった。よし、やるぞ、エイエイオー」
相沢は最後の言葉を、拳を突き上げながら言ったのだ。二人は顔を見合わせ笑った。林田が言う。
「なんですか、いきなり。こっちは心配していたっていうのに」
石塚は別の反応を示した。
「いいんだ、いいんだ。から元気でも、しょげているより、ずっとましだ。それより、ここのところいろんな噂が飛び交ってる。もうすぐ厨房が代わるとか、鎌田が近い内に支配人昇格だとか、敵は本部だけじゃなく、店でも山本色を作るのに必死だ。いよいよ決戦が近づいてきているってことだ」
林田がうーんと唸った。
「敵は鉄砲も大砲も持っているってえのに、こっちは厨房の包丁だけってな案配ですね。手も足もでねえ。なにか対抗手段はないですかね?」
調理長が笑いながら言う。

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