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愛しのヤクザ
第七章 テキヤNo2
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 おいっと、呼ぶ声がした。振り返ると、唸り声の若者が、人気のないバーのカウンターで缶ビールを飲んでいる。相沢はバーに入っていって若者の隣の椅子に腰かけた。若者が口を開く。
「さっきは悪かったな」
「ええ、本気なんでびっくりしました」
「馬鹿言え、本気ならはずさねえよ。どうも、俺はおめえみたいなエリートをみると虫酸が走るんだ」
「いや、エリートなんて、とんでもない。こんな風呂屋に回されたんですから、とてもエリートだなんて…」
 相沢は会社でエリートの地位から落とされたことを言ったのだ。自分を卑下したつもりが、この若者にとって傲慢以外何ものでもなかった。
「エリートじゃねえか。こんなすっげえ建物で、バーがあって映画館があって、ゲームセンターまである。その責任者なんだから、エリート中のエリートじゃねえか。何がエリートじゃねえだ、この野郎」
若者は怒りを露わにし、さっと席を立った。

 とぼとぼと事務所に戻った。林田は机に、鎌田は床に、それぞれマットを敷いて眠っていた。二人とも往復の鼾をかいている。ふと、若者の怒りの言葉を思い出して赤面した。何と馬鹿なことを言ってしまったのか。
 二度と会うことのない人々。だけど互いに濃密な時間を共有した。何か運命的な出会いだったのではないかと思う。親分さんとあの若者に明日、声を掛けたいと心底思った。せめて見送ろう。そう決心して、郁子に6時に起こすよう頼んで、個室にはいった。

 朝、郁子に起こされ、いの一番に連中のことを問うと、既に出ていったと言う。相沢はため息をつき、ゆっくりと立ち上がった。行ってみると小宴会場はもぬけの殻で、マットとタオルケットが部屋の片隅にきれいに積み上げられていた。
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