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愛しのヤクザ
第五章 覚醒剤
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。内村は健康ランドなど最低だと思っているのは明らかだ。相沢は調理長に深々と頭を下げた。

 その日の夕方、事件は起こった。風呂場担当の岩井が例のごとく事務所に駆け込んで来た。刺青男が騒いでいると言う。急いで行ってみると最近入社したばかりの上田が男に絡まれている。男の腕には大きな絆創膏が貼られている。そこに刺青を隠しているのだ。

 相沢はつかつかと二人に近付き声をかけた。
「おい、上田、どうした。何か、お客様に失礼なことでもしたのか?もし、そうならちゃんと謝るんだ。おい、上田。何とか言ったらどうだ。」
 上田は恐怖で体が硬直している。頭を下げようとしているらしいが、ぎしぎしと骨の擦れ合い音が聞こえそうだ。相沢に向かって何か言うのだが、声が震えて聞き取れない。しかたなく相沢がお客に話しかけた。
「誠に申し訳ございませんが、当店では絆創膏を貼ったままの入浴はご遠慮頂いております。お取りいただけませんでしょうか。」
 中にはケロイドや傷を隠そうとする人もいるが、この客は明らかにヤクザまがいの人生を送ってきた顔である。パンチパーマに頬の傷、眼光鋭く、首には図太い金のネックレス。
 ちんぴらの看板背負って歩いているみたいなものだ。男の目がきらりと光る。
「てめえ、俺を怒らせたいのか?俺は人に見られたくないから絆創膏を貼っている。それを見せろと言うのは、喧嘩を売っているのと同じことだぜ。やるか?あんっ。」
 声に凄みを効かせ、相沢を睨みつける。相沢も負けてはいない。絆創膏の下には小さいにしろ刺青が隠されている。睨み合いは数秒続いた。男は、ふんと鼻をならし、
「やる気がねえのなら、風呂に入らせてもらおう。」
と言うと、風呂に向かって歩き出した。相沢は追いかけて、男の前に立ちはだかり、頭を下げた。そしてもう一度言った。
「申し訳ありません、絆創膏を貼ったままのご入場はご遠慮頂いております。」
 男の顔が般若のよう歪んだ。男はとことんやる気なのだ。何故なら風呂に行くのにパンツをはいたままだからだ。フルチンですったもんだするのは、男にとってこれほど情けないことはない。この後、爆発するつもりで、パンツは脱がなかった。案の定、怒声が飛んだ。
「この野郎、とうとう俺を怒らせたな。こうなったらオメエも男だろう。覚悟はできているんだろう。ただで済むと思うな。」
 男はロッカーに戻り着替え始めた。この時、林田が入り口から顔を覗かせ、合図を送ってきた。あと5分の辛抱というわけである。相沢は男が着替え終わるのを待った。上田はへたりこんだままだ。岩井は神妙な顔をして相沢の傍らに佇んでいる。
 漸く着替え終え、男は上着のポケットから何やら取り出した。白い粉の入った袋だ。男は慎重に袋を破り、手の甲に大切そうに落としている。そして甲を鼻に近づけ、一気に白い粉を吸い込
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