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愛しのヤクザ
第四章 パチプロ
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。悪さしようとしてたじゃねえか。酔っ払った振りして女にぶつかろうとしていた」
「俺はただ酔っ払って脚がふらついただけだ。そいつを、こいつが勘ぐってどついた。どう考えても割があわねえ。おい、兄ちゃんよ、やろうじゃねえか、えっ」
ここで間をあけると、低い声で続けた。
「おい、ちょっくら、外に出ようじゃねえか。ここでは他のお客さんにご迷惑がかかる」
ここで林がぷっつんした。
「何が、ここでは他のお客さんにご迷惑がかかる、だ。テレビドラマみてえな臭い台詞吐きやがって。テメエは、ここで何度人様に迷惑をかけてきた。一回や二回じゃねえだろう」
男はこれを聞いて、ふふふと不敵な笑みを浮かべ、ついて来なとばかり、肩を怒らせ歩き出した。林はその後を追おうとしたが、いつの間に来たのか、林田が林を羽交い絞めして押さえた。林はそれを振り解こうとするが、力では林田には勝てない。
 男は振り向いて、二人の様子を見た。ふんと鼻を鳴らし、叫んだ。
「馬鹿野郎、風呂屋のサンスケがでかい面するなってんだ」
 林は尚も抵抗するが、林田が事務所に無理矢理連れ込んだ。相沢は林の目に光るものを認めた。男は、またもふんと鼻を鳴らし、相沢の前を通り過ぎ、階段を上っていった。相沢がその後ろ姿を憎々しげに睨みすえる。

 林はやはり悔しかったのだ。上司の理不尽で、これまで誇りをもってやってきた給与計算の仕事を諦めざるを得なかった。笑いながらその場をやり過し、現場に出た。そして、何度も女にぶつかって難癖をつけていたこの男に遭遇したのだ。
 相沢と同じだ。プライドを傷付けられ、鬱憤はたまりにたまった。林と違うところは、それが相沢のは自尊心だったことだ。林の方は、自尊心ではなく誇りだ。仕事に対する誇りを傷つけられたのだ。相沢よりよほどこたえただろう。

 相沢は、階段を上がってゆく男に向かって怒鳴った。
「おい、俺がさっき言った言葉が聞こえなかったのか?問題を起せば出ていってもらうと言ったはずだ。金は返す。今、出ていってもらおう。さあ、ロッカー室はこっちだ」
 男は振り向くが降りてこようとはしない。相沢には林の悔しさが感染していた。引きずり下ろしてやろうと、階段を上がっていった。男は温厚そうな相沢が怒りを顕にしているのを見て、困惑の色をみせたが、まだ余裕の笑みをうかべている。
 腕にそうとうの自信があるのだろう。それは相沢も一緒で、負ける気はしなかった。一歩一歩男に近付いていった。1メートルの距離で、ふと、相沢は自分がかなり不利な立場に立たされていることに気付いた。そこは階段途中である。
 もし、男がつま先でちょっと蹴り上げれば相沢の顎にあたる。男が空手の有段者であれば、まず避けられないだろう。階段を一段上がる。男も一段上がる。優位を保っている。どうやら、相手はそうとう喧嘩慣れして
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