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愛しのヤクザ
第三章 鯨井組
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た。それで、ちょっと口が滑ったのだ。
「皆さんは、もんもんしょって、それを誇りにしているんでしょう。そんな絆創膏のお化けみたいな物を体に巻いて、風呂に入るのですか、えっ。ヤクザの誇りはどうなっているんです」
ニヒル野郎と坊主頭が血相を変えて立ち上がって怒鳴った。
「何だと、下でに出ていればいい気になりやがって。表に出ろ。この野郎、表に出ろってんだ」
坊主頭が手を取ろうとするが、相沢はさっと手を引いた。いよいよ正念場だ。もう少しの辛抱である。フロントで林がにやにやしながらVサイン。まさか、こんな場面で、おちょくっているわけではあるまい。もうすぐだという合図なのだ。
 睨みすえるニヒル野郎。坊主頭は腕を取り立ち上がらせようとするが、相沢はその手を振り解き「暴力をふるうのですか?」と叫び睨みつける。互いに睨み合うこと数秒。ウーウーと短くサイレンの音。見ると、どっと入り口に制服の警官達が雪崩れ込んできた。相沢を取り囲んでいたヤクザ達も喚きながら入り口へと向かう。

 その途端、相沢は緊張の糸がぷつんと音をたてて切れたのが分かった。体中から力が抜けてゆく。林田もそこにへたりこんだ。どんなにこの時を待っただろう。リーダ格の警官の怒鳴り声が響き渡った。
「おい、鯨井、鯨井はいるか。おい、鯨井」
見ると、警官とヤクザが小競り合いを演じている。手を出せば公務執行妨害で引っ張られる。だから罵声を浴びせ、胸をぶつけて警官などには負けないという姿勢を示すのだ。その罵声にかっとしたのか、一人の警官があのニヒル野郎をねじ伏せた。またリーダー格の警官の怒鳴り声が響く。
「おい、鯨井、いるのは分かっている。鯨井、出て来い」
と、外から上背のある精悍な男が入ってきた。のんびりした声で答えた。
「はい、はい、ここにいます、ここにいます」
鯨井組の組長らしい。思ったより若く、苦み走った良い男である。どうやら表で待機していたようだ。怒鳴っていた警官が、組長の肩に手を置き、何やら話している。組長は逆らいもせず、ハイ、ハイと答える。その様子を見て、子分達も小競り合いから睨み合いへ移り、収拾の方向へと向かった。そこへ、
「俺達には、人権ってもんが、ないのか?えー、人権ってもんが、ないのか?」
という叫び声。人権?相沢が振り返ると、あのニヒル野郎の声だ。一人だけ手錠を掛けられ、相沢を睨みすえ、再び叫ぶ。相沢が、人権だって?と訝しがっていると、あのノッポの若者ヤクザが目を輝かせ、それを真似て叫び始めた。
「俺達も人権ってもんが、ないもんかえー」
漸く出番が回ってきて、思い切り叫ぶことが出来たのだ。生き生きと何度も繰り返す。
「俺達も人権ってもんが、ないもんかえー」
しかし、言葉は意味を成さない。最後の「えー」は独立していないといけない。ニヒル野郎は苦りきった顔で、若者を
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