黄巾の章
第20話 「貴方は、悲しみを背負う……ただの『人間(ひと)』なのだから」
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ね……)
心の中で懺悔しながら、彼の見開いた眼を、そっと閉じる。
そして、彼の首を彼の身体の上に、そっと置いたときだった。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
!?
あの声は……盾二さん!?
まさか……あの無敵の盾二さんが、叫んでいる。
そういえば……この子の弟がいない?
まさか!?
私は、乱れた服の切れ端を持ったまま、その場から駆け出した。
(お願い……無事でいて!)
無事で……どっちが?
ううん。どっちもに、決まってる!
ほとんど半裸の姿で血溜まりの中を走る。
と、厩の傍で彼の姿を見つけた。
その目の前には、子供がいて笑っている。
生きている……よかった。
助けることができたんだ。
「ごしゅ……」
声を掛けようとして、唐突に気付いた。
その異様な殺気に。
盾二さんじゃない。
あれは……誰?
ううん。
彼は紛れもなく盾二さんのはず。
でも、その目はなんの意思も宿ってなく。
ただあるのは、純粋な殺意だけ。
その彼は、無表情のままその場に立ち。
腰につけた短刀を引き抜き。
目の前で笑う子供に向けて――
「やめてぇぇぇぇぇぇっ!」
私の叫びに、ビクッと身体を振るわせた。
そして、ゆっくりとこちらを振り返る。
その眼は、まだ無機質だけど……短刀を持つ手が微妙に揺れている。
だけど、その手が再び上に掲げられ――
その瞬間、私は走り出して、壊れたように笑う子供に抱きつく。
それと同時に、私の右腕に振り下ろされた短刀の刃が掠めた。
「ぐうっ!」
抱きついたまま、ゴロゴロと転げて、馬が繋いである厩の木に背中が当たる。
肺の中の空気が強制的に外に押し出され、ゴホゴホとむせこんだ。
そして顔を上げる。
私は子供を抱きしめたまま、彼を見た。
「あ……ああ……」
盾二さんは……身体を震わせ、顔を歪ませて……何かを堪えている。
なにかに……なにに?
「……ごしゅじん、さま。もうおわったん、だよ?」
私は子供を放し、刃が掠めた腕を押さえながら立ち上がる。
その腕は痛みはなく、ただ熱い。
「あ……あ……ああ……」
盾二さんは……身体の震えを激しくしながら、再度短刀を掲げようとしている。
何かと戦っている?
いったい、なにと?
「もう、敵はいないよ? もう、終わったんだよ……?」
私は、傷を押さえていた手を放して……腕を広げる。
この人は……常に戦い続けている。
何のために? 誰のために?
「あ……ああ……」
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