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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第四十一話 さぁ、仕上げを御覧じろ
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有望な労働力を死地に送るだけでも度し難いと云うのに――よりにもよって、何時まで続くのか分からんときたものだ!」
 憤懣やるかたない、と<帝国>へ怒りをぶつける弓月伯に豊守は肩を竦めて答える。
「アスローンとも何やら面倒を起こしていると聞いていますからな。早めに手打ちが出来れば宜しいのですが」

「うむ、その件については葵からも聞いている。アスローンとの交易線が封鎖されたのは痛いが、〈帝国〉の負担が増えるのは良いことだ。後は冬まで持ち堪える事が出来れば守原英康を吊るし上げて宮野木の先代の様にしてしまえば良い。
堂賀君を通して執政殿、更には西原と結べば廰堂で決着がつく。そして護州・背州閥を無力化し、安東の東州閥を取りこみ、戦時に対応した意思を統一できる体制を作れば〈帝国〉の侵略を頓挫させる事も可能だ。北領の割譲で手をうてば時も稼げる、後は水軍を拡充しながらアスローンとの外交関係を密にして、さらに南冥――いや、凱へ販路を開拓し、通商関係を結べばこの戦争で発生する赤字の補填も出来る。経済で結びつく事が出来れば、対〈帝国〉の軍事同盟もありえなくはない」
 無論、何事も口先だけで嘯くだけならば簡単である。とりわけ政治は、学者がとった天下なし、と云うくらい理論と現実は乖離している。
 弓月もそれを知悉しているが、敢えて明るい口調で言った。

「何年かかるのやら、鬼が笑いそうな話ですな。――それでも、気分がよくなる話ではありますね」
 それを分っている豊守もまた同じく明るく笑った。

「その鬼を騙して笑い返すのが政治屋の仕事だよ、キミ。
まぁ、今、我々にできるのは最悪の事態を凌ぐことだ。その後の面倒は次の世代に押しつけるつもりだがね」
 そう言って互いに笑いあう。
「その為にも君の跡継ぎが心配だな。彼に戦死されてしまうと今後の政略で厄介なことになる。
陸軍の情報機関や水軍との伝手、それに駒城の育預殿との友好関係、そして何より北領の大功を持って若くして中佐の身だ、今は衆民からの受けが良いわけではないが<帝国>との戦を凌ぐことさえできれば護国の英雄として、衆民からの支持も期待できる」

「今は敗残兵を守る為に村を焼いた鼻持ちならない貴族将校、と反将家の連中には言われていますからね。もう少ししたらそれどころではなくなるでしょうが」
 豊守はそういって肩を竦めた。
「恐ろしい事にな。
だがこの戦を上手く切り抜ければの話だが、彼は経済にもそれなりに理解があるから、退役させて私の下に置くこともできなくはない。
30前に大佐というのは良い話だが、どの道これからは五将家も思うように動けなくなる。良くて少将あたりで留め置かれてしまうだろう?
だったら内務省に籍を移せば私の作った下地を継承させることも十分に可能だ。
――どちらにせよ、彼は戦後の
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