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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第四十一話 さぁ、仕上げを御覧じろ
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苦労したからな、権限を貰えねば困る」

「はい、その点が非常に厄介でしたが、龍州警務本部の予備費と警備人員をこちらの兵站線確保に充ててくれたお蔭でどうにかなりました――本当に感謝しています」
豊守は軍との交渉の為に尽力してくれた弓月に深々と頭を下げた。
「うむ、それに駒州公には半ば隠棲していた処を引っ張り出したのだからな。後々、御礼に伺うつもりだ。しかし、駒州公が動いて下さるだけで文句をつける連中を追い払えるのは驚いたな。さすがは駒州公だ、往年の手腕は今も尚健在であったな」
そうにこやかに話しながらも弓月伯の内心は複雑なものであった。
 衆民官僚達の庇護者を気取ってから延々と付き纏ってきた五将家からの横槍を当の五将家当主その人にうち払われたのだ、無理もないだろう。

「まぁ確かに虎の威を借りる狐になる事は間違いでもありませんよ。その虎がまともな虎ならばの話ですが」 と豊守が露悪的な表情を浮かべて云った。

「だから君は穏便に古びた虎の皮を脱ぎ捨てるのかね?」
 弓月が鋭い視線を向けると、豊守は――太平の世を生きる馬堂家を造った男は――寂しげに笑った

「――さて?私は残すべき馬堂の家には駒州男爵の号はまだしも駒城家陪臣の号は永続すべきだとは必ずしも思っているわけではありませんがね――主家が衰えていく様を喜んでいるわけではありません――ですがどうにもなりませんからな」
 
「非道い話だ――などとは言わんよ。私も似たような者だ」
 視線を茶器に落とし、黒茶の薫りを肴に思いを馳せる。
衆民官僚の庇護者となった貴族官僚を観て、豊守も瞑目する。
 ――万民輔弼宣旨書の発布から十四年、あれは我々が様々なものを失った象徴だった。
だが、それ以上に多くの者が栄え、彼、弓月由房は其処につけこんだ、弓月の家名を残すために。

「寂しくはありますな、だがどうにもなりません。それは大殿様も若殿様も理解はしていましょう。この戦で五将家最後の砦である、現行の軍制は変わらざるをえません――変えざるをえません」
 豊守は静かに目を閉じた。
「戦争は何もかも変えてしまうからな。」
 ――この戦でどれだけのモノが衰退していくのか―それらを惜しむ気持ちを持つのは年長者の特権か。
そう思いながら弓月は黒茶の苦みを味わう。
そして――
「変革を担うのは若者達、ですな。手前味噌ですが、幾らかは頼もしい輩もおります」と豊守は誇らしげに笑った。
 ――若者か、そうだ、だからこそ私も衆民官僚達を手助けした。彼らが強まると分かっていたからこそ、弓月家当主である自分を敢えて神輿にさせたのだ。
「――であるな。我々だけでは片付かないだろう、まったく、戦争など碌なモノではない。
湯水の様に我々が切り詰めて民需の為に使っていた予算を下らぬ軍費なぞに使い込み

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