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絶唱漢女道
第一章

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                      絶唱漢女道
 その時宮部寛治は何か勘違いをしていた。
 それでだ、同じ職場で働いている木戸優太にこう提案した。
「ちょっとな」
「ちょっとって何だよ」
「面白い場所に行ってみたいんだよ」
「面白い場所?」
「ちょっとない様な場所にな」
「それって何処なんだ?」
 木戸はいぶかしむ顔で宮部に問い返した。
「そう言われてもな」
「いや、何処か普通じゃない様な、な
「そう言われてもわからないぜ」
 木戸はまた宮部に言った。
「ちょっとな」
「そうか」
「面白いとか普通じゃないっていっても色々だろ」
「それもそうだな」
「本当にな、だからな」
「そうだな、じゃあな」
「ああ、何処に行くんだよ」
「まずは飲むか」
 それからだった、宮部はとりあえず飲むことにした。その飲みに行く場所は繁華街の居酒屋だ、仕事帰りに飲み。
 カウンターで芋焼酎を飲みながらだ、宮部は木戸に言った。
「まずは飲んでな」
「それからか」
「考えような」
「飲むだけでもよくないか?」
 木戸も黒糖焼酎を飲みながら宮部に言う、つまみは焼き鳥だ。
 その焼き鳥も食べながらだ、二人で話しているのだ。
 それでだ、木戸はこう言ったのだ。
「もうな」
「こんなの普通だろ」
「焼酎で焼き鳥はか」
「だから俺はな」
「普通じゃない面白い世界を知りたいんだな」
「見たいんだよ」
 カップの中の焼酎を煽りながらの言葉だった。
「そのことのヒントを得たくて今はな」
「飲んでるんだな」
「そうだよ、酒を飲むといいものが出るだろ」
「そうか?」
 木戸は宮部の今の言葉に首を捻ってこう返した。
「碌なことを思い浮かべないんじゃないか?」
「そっちの方が多いっていうんだな」
「そうだよ、そういうものだろ」
「そうか」
「だから具体的にどういうのなんだよ」
 木戸は焼き鳥の肉と葱を横から噛み口で引き抜いて食いながら問うた、鳥と葱、そしてタレが絶妙な調和で口の中を支配する。
「それすらもわかってないだろ」
「だから今も言ってるけれどな」
「それが何かを見出したくてか」
「今飲んでるんだよ」
「何処かの元総理みたいにいらん考えに至るだろ」
「そうか?」
「まあ御前はあいつ程あれじゃないけれどな」
 あそこまで己の発言や行動に責任を持てない輩こそ廃人、禁治産者と言うべきではないだろうか。思えばよくああした輩が一国の宰相になったものだ。
「それでもな」
「飲んでれば充分だっていうんだな」
「そうだよ、普通がいいんじゃないか?」
「いや、刺激が欲しくてな」
「刺激なあ」
「とにかく飲んで考えるさ」
 宮部は飲みながら言っていく、そして二人は共に焼酎をしこたま飲んだ。
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