第五章 因果
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を決意していた。その決意を翻させたのは私だ。だって、本当に、洋子さんがあの家に来てからというもの、何もかもが変わった。翔ちゃんの暴力は洋子さんに向かった。私を庇ったからだ。それでも洋子さんは、言うべきことをはっきりと言って、翔ちゃんを諌め続けた。
だから、あの時は本当に必死だった。離婚を思い止めさせなければならないと思った。そして、とうとう私の本心を伝える決心をした。そう、こう言って引き止めたの。「二人で、翔ちゃんを何とかしましょう」って。そしたら洋子さんはきょとんとして聞いた。
「二人で翔ちゃんを何とかするって、どういう意味?お母さん、それってどういうことなの?」
私は何も答えなかった。言わずもがなのことだと思ったから。私はじっと洋子さんの目を見ていただけ。私は何も指示なんかしていない。洋子さんにしてみれば殺される前に殺す。私は何もかも失う前に息子に死んでもらいたい。これよ。
そして洋子さんが動き出した。深夜、パソコンに向かうことが多くなった。恐らくインターネットとかいうやつで、何かを調べていたのだ。翔ちゃんの車に何か細工するつもりみたい。私はぞくぞくという興奮を味わった。そして心から声援をおくったものだ。
だから翔ちゃんが実印を持ち出したと分かって、すぐさま洋子さんに知らせた。何とかして欲しいと懇願すると、洋子さんは、すぐに出かけた。二人の愛の巣に向かったのだ。私はいらいらしながら待った。いても立ってもいられなかった。洋子さんが帰ってきたのは夜中過ぎだ。疲れきっていた。私はかまわず聞いた。
「上手くいったの。ねえ、上手くいった?」
洋子さんは深いため息をついて答えた。
「明日にならなければ、それは分からないわ。ブレーキがきかなくなって事故は必ず起きる。でもその事故で彼が死ぬとは限らないの。それは運命よ。彼が死ぬか、それとも生きるか。つまり、私たちが勝つか、それとも負けるか、それを知っているのは神様だけ」
それでは困るの、だから私は必死で食い下がった。
「ねえ、もし生きていたらどうなるの。この家はどうなっちゃうの、ねえ、何とかして、ねえ、何とかしてちょうだい。お願いよ」
洋子さんは自信たっぷりに微笑んだ。そして静かに答えたわ。
「大丈夫、お母さん。何とかする。次の手も考えてあるの。もし、今日のことが駄目だったら次の手よ。兎に角、早めに準備にかからないと」
「そうよ、急がないと、あの子が残っている100坪の土地も売ってしまう。そうなったらこの家を追い出されてしまうわ。だから、今度こそ、確実に……」
洋子さんはにこりと微笑んだ。
「貴方の息子の息を止めろと言いたいの?」
私は自分の言おうとした言葉に戦慄したが、割り切るしかない。そして強張った顔でぎこちなく微笑んだ。洋子さんには笑ったようには見えなかっただろう。言いたいこ
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