第五章 因果
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ば俺は浮かばれない。死んでも死に切れなかった。だから……だから……』
「確かに、翔ちゃんは、勝の葬式のとき声を上げて泣いていたわ。そして勝のことで洋子さんを責め続けた。でも、翔ちゃんが、洋子さんを責め続けたのは、何もそれが理由ではないわ。お母さんは知っているのよ」
『いったい、何を知っているというんだ。変な言いがかりはよしてくれ。俺は純粋に勝のことで洋子を憎んだだけだ』
「翔ちゃんが、残った300坪のうち200坪を売って事業を起こした時、雇った事務員が片桐舞さん。翔ちゃんが入社2年で辞めてしまった会社の部下。舞さんの洋子さんに対する嫌がらせはその時から始まっていたのよ」
『……』
「そして追い討ちをかけるように勝が亡くなった。翔ちゃんは、これを機に一気に離婚に追い込もうとした。だから洋子さんが最も傷つく言葉を吐き続けた」
『……』
「洋子さんが離婚届に判を押さなかったのは、舞さんの存在があったからよ。嫌がらせを続ける舞さんを心底恨んでいた。だから洋子さんも意地になってたみたい」
『舞とは愛し合っていた。あいつも焦っていたんだ。俺と結婚したかったんだ』
「焦ったから、あんなことまでしたの、二人して」
ぎょっとして母親を見た。まさかそこまで知っているとは思いもしなかった。中条の視線が落ち着きなく揺れ動く。
「洋子さんは、バックミラーで貴方たち二人の顔をみているの」
母親は視線を合わせようとしない息子を睨みつけた。
「洋子さんは昼の仕事の後、夜、お弁当屋さんに勤めていた。貴方たちは、夜、帰宅する洋子さんのミニバイクに後から車を追突させた。幸い洋子さんはかすり傷で済んだけど、でも、洋子さんは、その時、貴方たち二人の顔をバックミラーで見ているのよ」
じりじりとした焦りが、中条の心を追い詰めてゆく。
『あいつが、悪いんだ。なかなか離婚届に判を押さなかったあいつが悪いんだ』
それは中条にとって自明の理なのだ。あまりにも洋子は頑なになりすぎていた。
「翔ちゃんの会社はとっくの昔に破綻していた。舞さんとの生活にはお金が必要だった。
だから洋子さんに死亡保険を掛けたわけね」
まさかそこまで知っていようとは。焦りは胸を圧迫して息も出来ない。逃げ道はなくなっていた。思わず叫んでいた。
『それもこれも、お前が悪いんだ。お前は実印を隠して100坪の土地を売ろうとしなかった。お前が、意地を張らなければ、俺だって、そこまで思いつめはしなかった』
母親は優しくその言葉を受け止めた。
「はいはい、悪うございました。翔ちゃんが、そこまで思いつめていたとは気付きもしなかったわ。それより、翔ちゃん、そろそろ自分が死んだことを認めなさい」
『ああ、そうだ。俺は死んだ。あのクソ女にあの土地を残して死んだと思うと、悔しくて、悔しく死に切れなかった』
「それは
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