第五章 因果
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。俺はそんな男じゃない』
「それに、大学の演劇部の寄付は、ほとほと参ったわ。桜庭や上野には負けたくないって、怒鳴った。お金がないと言うと土地を売れってすごんだ。思い出がいっぱいの土地を手放すのは、本当に辛かったわ。でも翔ちゃんの暴力には逆らえなかったもの」
『貴様など、知らない。お前の顔なんか見たこともない』
中条はいつもそうしてきたように怒鳴りわめき続けた。しかし、母親は容赦しなかった。
「勝が自動車事故で死んだ時は私も辛かった。翔ちゃんは、車を運転していた洋子さんを責め続けた。洋子さんが勝を殺したも同然だって。でも洋子さんは居眠り運転するほど疲れきっていた。翔ちゃんが、家にお金を入れないから、一日中働きずめだった」
『嘘だ、嘘を言うんじゃない』
「とにかく、翔ちゃんは、何でも責任を人に押し付けて、人を恨んで、糞味噌にやっつけていれば満足だった」
『クソ婆が、死ね、死んでしまえ』
「言われなくとも死んでいるわ、つい昨日のことよ。翔ちゃん。あなたと同じ世界に一歩足を踏みいれたの」
『嘘だ。嘘をつくな。俺は死んではいない。俺はここにこうして生きている。このベッドを見ろ。この体を見ろ』
「違うわ。翔ちゃん、よく見て。ベッドに寝ているのはまだ子供よ。貴方は今何歳だと思っているの?翔ちゃんが死んだのは45歳の時よ」
『俺が死んだって、嘘を言うのもいい加減にしろ。俺は、脳溢血で倒れ、そして全ての感覚を失った。しかし、意識だけははっきりとして、ここに寝ているんだ』
母親は思わず吹き出し、可笑しそうに声を上げて笑った。
「それって、洋子さんに復讐するために夜毎紡ぎ出された作り話の一つにすぎないわ。この子は良く夢を見る体質だから、今晩は二回も夢を作り出せた。でも、今回の設定は正に今の翔ちゃんとそっくり。身動き出来ないで、そこに縛り付けられている」
『止めてくれ、作り話なんかじゃない。俺はこうして生きているんだ』
「いいえ、よく見なさい。この子は翔ちゃんじゃないの。翔ちゃんは死んだのよ。舞さんと一緒に車で事故にあった。舞さんは救急車の中で、翔ちゃんはこのベッドの上で死んだの。あの世にも行かず、ここに留まっているってことは、よっぽど死にたくなかったのね」
そう言うと、母親は、ベッドの斜め上の天井に視線を向けた。その瞬間、中条の意識はベッドに横たわる少年の体からすーっと離れ、母親と面と向き合うことになった。荒い息をはきながら、母親を睨みつけている。
「そろそろ目を覚ます時よ。翔ちゃんは、この病室に来る人来る人の夢の中に入り込んで、人の夢を横取りして自分の思いを遂げてきた。物語を紡ぎ出し、洋子さんや阿刀田先輩に対する恨み辛みを何度も何度も晴らしてきた。空しいと思わないの」
『空しくなんてない。俺は勝を本当に愛していた。その責任を洋子に取らせなけれ
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