第五章 因果
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『卑劣な女、洋子!勝を殺しておきながら、少しも反省しようとしない女』
あのどこからともなく聞こえて来る声が再び響き渡る。中条の心が何故かこの声に反応し、打ち震えている。前世の記憶がじわじわと脳裏に浮かび上がり、勝が洋子と阿刀田に殺された時の悲しみが甦ったのだ。心がその言葉に共鳴する。そして、
『今度は、勝に有名人の血を引いていると自慢する女。息子は苦しみながらも、俺の愛情に応えようとした。だからあの女に怒りの鉄槌を振り下ろしたのだ』
またしてもあの声が響く。この言葉は、まさに中条の今の悲しみと怒り炸裂させるに十分すぎるほどの起爆剤となって、中条の脳に働きかけた。中条の声が響き渡った。
『思い知ったか、洋子、お前は殺されて当たり前だったんだ。勝は、こんなにも苦しんだ。
その代償としての死は、お前自身が引き寄せたんだ。全てお前のせいなんだ』
中条のその怒鳴り声はまさしく、何処からともなく聞こえていたあの声そのものだった。前世の恨みを含むこの怒気に中条は何の疑念も抱かない。怒り心頭に発し、ただその爆発に身を委ねているだけだ。
こうして憤怒が頂点に達したとき、中条は、めくるめくような恍惚に満たされ、波のように打ち寄せるエクスタシーを味わっていた。背徳のエクスタシー、殺して恨みを晴らした時に上げる勝利の雄叫びだったのだ。中条は、その残滓まで味わい尽くし、ふーとため息をつく。悦楽の常として、このエクスタシーも一瞬だ。
恍惚の時はいつも瞬時に終わってしまう。くだらないジョークで皆と馬鹿笑いした後に訪れる静寂に似て、このエクスタシーには虚しさが伴う。或いはそれもやむを得ないのかもしれない。何故なら、これは全て夢の中の出来事なのだから。
ふと、我に返ると部屋は静寂が支配していた。急激に萎んでゆく興奮。中条は勝の気配を探った。人の気配はある。しかし、それは勝のそれではない。そうだ、勝の話はもう既に終わったのだ。
中条は舌打ちし、薄目を開けて、その狂った婆さんの姿を見上げた。また来やがった。ふんと鼻をならし睨みつけた。老婆は椅子に腰掛けて話し始める。
「翔ちゃん。この前は、何処まで話したっけ。そうそう、先月は、翔ちゃんが洋子さんと結婚する前までだったわね。そう、洋子さんは、本当に心の優しい人だった」
『うるさい、俺の世界の邪魔をするな。死ね、糞ババア、貴様の顔など見たくない』
中条がいくらわめこうが叫ぼうが、婆さんは喋りつづける。そう、中条は最初からそれが誰なのか分かっていた。婆さんは中条の母親だった。
「翔ちゃんは、結婚式は帝国ホテルじゃなきゃ厭だって、暴れた。どんなに謝っても許してくれなかった。翔ちゃんの暴力にはなっれっこになっていたけど、あの時は死ぬかと思った。髪をつかまれ家中引きずりまわされたんだから」
『そんなことしてない
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