第四章 目覚め
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答えた。
「洋子は変わったよ。美少女から妖艶な美人妻にね。本当に翔がうらやましい。こんな美人と毎日暮らしていられるなんて」
「でも、毎日だと飽きるんだ。古女房でよければ、…」
洋子が睨んでいる。中条は笑いながら続けた。
「冗談、冗談。毎日が新鮮で、朝起きる度にときめいている」
「なによ、今更。許さないから、家でお仕置きよ」
みな、どっと笑った。ひとしきり昔話で盛り上がった。そんななか、桜庭がにやにやしながら言った。
「しかし、阿刀田先輩がこれほど出世するとは思いもしなかった。でかい図体して、ただただ舞台の上を右往左往していただけなのに、今じゃどうだ、映画、舞台、テレビと乗りに乗ってる。人生、どこで、どう変わるか分かったもんじゃない。でも、奴も思い切ったもんだ。しかし、そこまでやるかね。いくら出世と引き換えだとしてもだ」
上野もにやにやしながら頷き、グラスのシャンペンを一気に飲み干した。中条は桜庭の言っている意味が分からず聞いた。
「おいおい、ふたりとも何にやにやしているんだ。それに、思い切ったというけど、阿刀田先輩は何をどう思い切ったんだ?。俺達にも分かるように教えてくれよ」
「業界じゃ有名な話さ。それに一部女性週刊誌にもすっぱ抜かれたこともある。阿刀田先輩は、その週刊誌の記者にそうとうの金を積んで黙らせたって話だ」
桜庭は広告代理店の営業マンだから、この業界の噂にも長じている。顎をしゃくって彼方の一団を示し、小声で言った。
「あそこにいる白髪の老人を知っているか。取り巻き連中に持ち上げられて、ふんぞり返っている脂ぎった老人がいるだろう。あいつだよ」
「いや、知らん」
「わが大学の先輩で、演劇評論家の飯田久だ。そして、あの飯田先生のお気に入りはみんなホモ達だってことさ」
「つまり阿刀田先輩も、ってことか?」
中条は思わず絶句したのだが、洋子の反応は意外だった。
「信じられない。私、阿刀田先輩に憧れていたのに。でも、芸術家ってみんなその気があるみたいよ。だってミケランジェロやダビンチだってそうだったって言うじゃない。でも、それって本当の話なの?」
「ああ、本当のことだ。この業界じゃ有名な話よ。おっと、おい、おい、こっちに来るよ。奴がこっちに近づいてくるって」
四人は引きつった顔に笑顔を載せて、主役の登場を迎えた。阿刀田はその長身をゆらゆらさせて歩いてくる。その顔は得意満面で、ゆとりの笑みをうかべ四人の前に足をとめた。
「おい、おい、懐かしい顔ぶれだ。洋子ちゃん、幸せになれて良かったな。中条君は君の憧れの的だった。おい、おい、中条、新宿で偶然出会ったのは何年前だ。確か、子供が生まれたって言っていたよな」
中条が、それに答える前に、洋子が答えた。
「息子はもう小学五年になります。ところで阿刀田先輩のことは、いつもテレビで
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