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夢盗奴
第四章 目覚め
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落ちてゆく。

 再び目覚め、虚ろな意識に鮮明な記憶が蘇る。そして思い当たった。不安と動揺、そして絶望へと繰り返される毎日から逃れたい、もう一度やり直したい、という儚い思いが、あんな夢を見させたのだ。何ということだ、絶望という奈落の底にまたしても絶望が!
 最初の発作に襲われたのは寒い冬の朝だった。会社に遅れそうになって駅まで走って電車に飛び乗った。そして発作に襲われた。目覚めると目の前に不安そうに自分を見つめる洋子の顔があった。一瞬、その顔に歓喜の表情が広がった。
「あなた、あなた。目覚めたのね、ねえ、私が分かる、洋子よ」
「ああ、大丈夫だ」
「よかった。電車に乗ってすぐに発作が起きたから、駅前の病院に担ぎ込まれたの。だから大事に至らなかったみたい。駅前に病院があったのだから本当に不幸中の幸いだったわ」
「俺の体はどうなっているんだ。下半身の感覚がない」
「ええ、正直に言うわ。麻痺が残っているの。でも、リハビリすれば何とかなるって、先生が仰ったわ。ねえ、頑張りましょう。私も協力する。出来るだけ頑張るのよ。会社のことは忘れて」
地獄のリハビリがその時から始まった。

 何度も投げ出しそうになった。何度も喧嘩して罵り合った。何度も二人で泣いた。勝はそんな二人をおろおろしながら見ていた。二人は勝が嫉妬するほど仲睦まじく、争ったことなどなかった。勝にとって、こんな二人を見るのは初めてだったからだ。
 少しづつだが右足が動くようになった。続いて左足が引きずるようにだが、何とかそれに倣った。それを見て、洋子の目に涙が滲んだ。中条はようやく洋子の胸奥を覗いた気がして、自らの弱さを克服しようと決意を新たにしたものだ。
 そして、それまで心の奥底で燻り続けていた洋子に対する疑惑など吹き飛んでしまった。洋子に対する疑惑は全く馬鹿げた妄想だったのだ。洋子は中条を心から愛している。中条
を必要としている。そのことが分かった。
 その妄想の発端は、最初の発作よりだいぶ前に遡る。演劇部の先輩である阿刀田から夫婦宛にパーティの招待状が届いた。テレビで活躍する阿刀田は遠い世界の人間だと思っていただけに、二人は飛び上がらんばかりに喜んだ。
 帝国ホテルで行われたパーティにはテレビでお馴染みの文化人の顔もちらほら見られた。二人は遠くから主役である阿刀田を眺めていた。そんな二人に後ろから声がかかった。
「おい、相変わらず見せ付けるじゃないか。そろそろ倦怠期に入ってもおかしくない時期
だ。まして子供までいるんだろう」
振り返ると、桜庭と上野がグラス片手に微笑んでいた。演劇部の悪友達だ。洋子が嬉しそうに応じる。
「うわー、懐かしいー。二人とも何年ぶり。桜庭ちゃんに昭ちゃん。昔と少しも変わってないわ。ねえねえ、私はどう?変わった」
昭ちゃんこと上野がすぐさま
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