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夢盗奴
第三章 殺人
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それ以前に交友があり、その後途絶えた奴が犯人ということになる。
 そして、それは洋子以外にありえなかった。家に招待し裏庭を散策した時、洋子が聞いた。「随分広い土地ね。これって何坪あるの」と。中条は止む無く答えた。小さな頃から自慢していると思われるのが厭で、殆ど人に喋ったことなどない。その例外が洋子なのだ。
 その洋子を手繰り寄せるには、上野に会う必要がある。何故なら、同窓会の折り、桜庭は上野と洋子の関係を怪しいと匂わせた。桜庭はその方面の勘が鋭い。学生時代、洋子を巡って一時険悪になったことがあったが、その時そう感じたのだ。

 上野はすぐにつかまった。六本木の店ではなく新宿のバーで待ち合わせた。上野は20分ほど遅れてきたが、席に着くなり聞いた。
「でも、洋子が勝ちゃん誘拐に関係しているっていうのは本当なんですか。なにかの間違いじゃありません」
「間違いない。洋子は表には出ていないが、絶対に関わっている。洋子が何処にいるか知りたい」
「僕に彼女の居場所を聞くなんてお門違いですよ。僕が知っているなんて、何故思ったんですか?」
中条はいきなり胸倉をつかんだ。
「勝の命がかかっている。貴様の嘘や言訳に付き合っている暇はない。お前が洋子に惚れていたのは俺が一番よく知っている。自分の店に来た洋子をお前が見逃すはずはない」
上野の目はすぐに真っ赤に染まった。
「分かりましたよ、苦しいから手を離してください。先輩、お願いします」
と震える声で答えた。
上野が話し始めた。確かに阿刀田主催のパーティのあった頃、上野は洋子と付き合っていた。熱をあげ、女房には内緒で赤羽にマンションを買い与えていたのだ。しかし、次第に、上野は自分以外に男がいるのではないかと洋子を疑いはじめた。
そして、ある時、思い切ってマンションを見張ったのだが、上野はそのエントランスから出てくる男を見て自分の目を疑った。それが阿刀田だったと言うのである。
「阿刀田はまだ演劇で食っているのか?」
「いいえ、奴はあのパーティの直後、公演を開けず劇団を解散して、姿を消していましたから、本当にびっくりしました。まさか阿刀田先輩が洋子と出来ていたなんて」
「それでどうした」
「洋子は諦めました。マンションの借金は残っていましたけど、それは引き受けることにして、手を切ったんです。洋子は、それからも僕の友人やらに粉をかけて歩いたらしいけど、誰も相手にしません。だってそうでしょう。当時、美人とはいえ、既に36を過ぎていましたから」
「まだ、そのマンションにいるのか」
「多分いると思います」
「よし、案内しろ」
 怖がる上野を無理やり赤羽まで引きずって行った。途中の商店街で警棒を買い込んだ。上野が恐れる阿刀田の粗暴さは演劇部の誰もが知っていた。そんな男が何故演劇なのか、皆、首を傾げたもの
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