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夢盗奴
第三章 殺人
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「お願い、勝を返して。お願い、何でもするから。そんなこと、そんな、警察なんかに電話なんてしないわ。言われなくたって分かっています。お願い、勝が生きて帰れるなら、何でもします」
るり子の顔はくちゃくちゃで涙も洟も一緒になって口元を濡らしていた。
 中条は、るり子から受話器を奪うと耳に当てた。男の潰れたような声が響く。
「奥さんよ、分かってりゃあいい。万が一にも警察に届ければ、間違いなく息子の命はない」
中条が受話器に向かって叫んだいた。
「おい、聞いてくれ。勝は心臓が悪いんだ。もし発作に襲われて、ニトロがなければ死んでしまう。金は何とかする。いくら欲しいんだ」
「おや、旦那さんか。その方が話しは早い。いいかよく聞け、一億円を用意するんだ。びた一文まけない。きっちりと揃えてもらう」
「今日は日曜だ。ましてそんな金などない。現金はせいぜい4千万、証券はあるが現金化には時間がかかる。家を売ればなんとかなるが、すぐにというわけにはいかない」
「現金が4千万だと、おい、ふざけたことを言うな。近所の噂じゃあ、金庫に金が唸っているそうじゃねえか」
「内実は違う。親父の残してくれた財産はあらかたお袋が使ってしまった。俺に残されたのはこの土地と僅かばかりの現金だ。だから一億作るとなると土地を売るしかない。」
「その辺の土地は一坪幾らくらいするんだ?」
「100万がいいところだ」
「ヒュー、6億か。すげえな。ではこうしようじゃねえか。いいか、よく聞け。坪50万で大手の不動産会社に打診しろ。明日、朝、一番で電話するんだ、いいな。そして内金として一億早急に用意してもらえ。明日、午後7時に電話する。くれぐれも言っておくぞ。仲間がお前の家を見張っている。変な動きがあれば、子供の命はない。これは脅しじゃない。分かったな」
「待ってくれ、せめてニトロを子供に持たせたい。どうすればいい」
「子供は大事に扱っている。安心しろ」
そこで電話は切れた。
「どうするの?」 
るり子の声は震えていた。中条は、それには答えず、すぐさま駅前の不動産屋に電話を入れた。裏庭を処分して以来、そこの社長とは親しい。社長は坪50万という言い値に飛び付いた。明日、午後3時までにありったけの現金を用意することも承諾してくれた。
 社長は売り急ぐ中条の様子に不審を抱いたようだが、チャンスをつかんだ興奮の方が勝った。るり子に明日一番で4千万円を銀行からおろすよう指示し、中条は出かける用意を整えた。1億には足りないが、万が一の時の用意だ。実は犯人の目星はついていた。

 犯人の言った「6億」という金額が鍵なのだ。100万で6億。犯人は土地が600坪だと思っている。母親が死んで相続税を払うために止む無く300坪を売ったのが28歳の時。つまり、犯人の情報は中条が28歳以前のままだ。つまり
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