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夢盗奴
第二章 別れ
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 病院に駆け付けると洋子の病室のドアには面会謝絶の張り紙があった。呆然と立ち尽くしていると、ドアが開き、白髪混じりの女性が洗物を持って出てきた。出会いがしら、二人は互いに見詰め合った。女の顔がにわかに強張った。
「あなた、中条翔さんじゃありません?」
「は、はい」
「娘から貴方のことは聞いています。でもまさか、貴方があの子をこんなにまで追い詰めるなんて思いもしませんでした。今年のお盆休みには貴方を連れて来るって、私に紹介するって言っていたのに……」
ここで言葉を切ると、ハンカチを取り出し、涙を拭ったが、直後に、その赤く濁った瞳をまっすぐ中条に向け、きっとなって言い放った。
「この責任はきちっと取ってもらいますから、そのつもりで。さあ、帰って、さっさと帰ってください。貴方をあの子に会わすわけにはいかないわ。貴方の顔を見れば、あの子は情にほだされ、貴方を許してしまう。それほど貴方を愛していた、だから自殺をはかったのよ。いい、自殺よ、自殺。貴方のしたことは、婚約不履行よ」
「お母さん、それは違います。私は彼女を裏切ってなどいない。彼女の勘違いなんです。分かって下さい」
「お母さんなんて、気安く呼ばないでもらいたいわ、けがわらしい。貴方は、自分のやったことの責任を取るのよ、それしかあの子に対する贖罪の方法はないの、分かった。兎に角、帰って、帰ってちょうだい」
中条を押しのけるようにして憤然と歩いて行く。そして廊下の角を曲がって消えた。振りかえり、部屋のドアに視線を戻した。面会謝絶の文字は中条を拒否するように、そこに掲げられていた。

 とぼとぼと四谷の街をさ迷った。確かに、洋子に対する愛情は以前ほどではなくなっていた。彼女との関係に何か漠然とした不安が常に付きまとっていたからだ。だからと言って、別れ話を持ち出すほど冷え切っていたわけではない。
 中条は女たらしではないが、経験は豊富だった。初体験は中学3年のことで、先輩の女性に童貞を奪われた。大学で演劇をやっている頃など女からの誘いは引きも切らず、女に苦労したことはない。
 そんな女遊びも洋子に出会ってからぴたりと止めた。洋子ほどの女はこの世にいないと思ったからだ。精神的にも、肉体的にもである。その精神的な部分に不安を覚えたとはいえ、愛し合う喜びは何物にも代えがたかったのである。
 しかし、何故、洋子が中条の見合のことを知ったのか不思議だった。それは母親の友人の紹介で、母親に言わせると、曖昧に返事をしているうちに、のっぴきならない状態になってしまったらしい。母親に会うだけ会って欲しいと懇願されたのだ。
 その見合いは新宿のホテルで行われた。中条は堅苦しい席を早々に立ち、見合い相手を新宿御苑に連れ出した。そして正直に打ち明けた。婚約者がいること、母親が結婚に反対していることも。相手は一瞬顔を
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